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「日本で一番本を売るTikTokクリエイター」野球一筋の生活から小説に目覚めるまで

小説紹介を始めて5日目でバズを経験。TikTokの拡散力に驚かされた

 こうしてTikTokで小説紹介を始めたけんごさんは、まずは10本やろうと心に決めていたそうだ。特に反響もなく、継続する意味を見出せなかったら、途中でやめることも考えていた。  しかし、小説紹介を始めてわずか5日目。4本目に投稿した動画がいきなりバズを起こした。  こがらし 輪音『冬に咲く花のように生きたあなた』(メディアワークス文庫)を紹介したところ、TikTokで大きく拡散され、最終的には重版になるほどの大反響になったのだ。
@kengo_book 冬に咲く花のように生きたあなた ラストシーンがたまらないです。 #小説 #ラノベ #本紹介 #読書 ♬ Niji – Masaki Suda

 まさに“TikTok売れ”現象を巻き起こしたわけだが、「TikTokの影響力に、ただただ驚くばかりだった」と胸の内を明かす。 「TikTokで小説が拡散され、重版されるほどに人気がつくとは思ってもみませんでした。短い動画でも惹きつけることができれば、小説を読む人が増えるんだと思ったとき、TikTokのすごさに衝撃を受けましたね。  特に何も戦略のようなものはなかったです。最初は、中高生の女性をターゲットに小説の魅力を届けることを念頭に置いていて、10代の悩みや学校の人間関係などを想像しながら、小説を選んで紹介することを意識していました」  現在はTikTokのほかにも、InstagramやTwitterのアカウントを開設し、SNSごとに使い分けているそうだ。
Instagram

Instagramは小説の魅力をテキストや写真で伝えているという

 Instagramはテキストや写真で小説の魅力が伝わるような投稿をしており、Twitterはイベントの告知や雑談などといったラフな内容を発信している。  けんごさんは「各々のSNSで情報を完結させることを意識している」としながらも、動画の方が圧倒的に拡散力の強さを感じているという。 「情報として届けるにはテキストや写真も良いと思いますが、やはり実際に購買までつながるのは動画しかありません。自分の声や身振り手振りを交えて、小説を紹介した方が伝播していくと実感しています」

SNSのコメント欄から作り上げた恋愛小説

ワカレ花

けんごさん初の小説『ワカレ花』(双葉社)

 2022年4月28日に初の小説を出版し、作家としてデビューしたけんごさん。これまで「小説を紹介する側」として活動していたのが「小説を書く側」に回ったことで、何か苦労した点やぶつかった壁はあるのだろうか。  けんごさんは「正直始めは何を書こうか迷ってしまった」と吐露する。 「多くの小説家は書きたいテーマがあり、それをモチベーションにストーリーを考えていく。でも自分の場合、小説を書くことが先に決まっていただけなので、どんな小説を書こうかと思い悩んでしまって……。ヒントになったのは日頃からやっているSNSでの小説紹介でした。投稿するたびに、フォロワーの方からたくさんのコメントをいただいていて、その中に小説のモチーフやエッセンスになるような言葉が詰まっていたんですよ。SNSのコメントをかき集め、小説の方向性やテーマを定めていき、最終的に恋愛小説にたどり着きました。初の小説ということで、フォロワーの方が読みたいものを書こうと思ったんです」  けんごさんの各SNSのフォロワーは10代から20代の女性が圧倒的多数を占めるという。  それゆえ、若年層の女性が好む小説の文体やストーリーを意識し、小説を書き上げていった。 「3ヶ月半くらいかけて小説を書きましたが、やはり初めてのことだったので苦労もたくさんしました。でも、新しい取り組みで楽しくやれた部分もあり、小説を書く大変さを知れたからこそ、自分の小説紹介にも活かせると感じました」  今後の活動としては、小説紹介や作家活動をできる限り長く続けることを目標に置いているという。  ただ、けんごさんは「独立は全く考えていない」とのことで、会社員と小説紹介クリエイターを当面は両立させていくとのこと。 「今は映像制作の会社で働いているんですが、そこでもモチベーション高く、楽しく仕事をやれています。会社員の立場が楽というか……。税金や社会保障のことを考えると、本業があるからこそ安定した生活が送れ、余裕が生まれると思うんです。生活にゆとりがあれば小説紹介の活動も本気で打ち込めるので、今後も独立せずに会社員との二足のわらじでやっていこうと考えています」 <取材・文・撮影/古田島大介>
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
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