「日本で一番本を売るTikTokクリエイター」野球一筋の生活から小説に目覚めるまで
人気の高い売れ筋の本を探すときには、書店のスタッフに聞いたり、ネットのレビューを見たりするのが一般的だ。最近では、SNSでおすすめの本を発信するアカウントも増えており、自分の趣味嗜好に合うものが探しやすい時代になった。そんななか、TikTokのフォロワー数が28万人を越える小説紹介クリエイターのけんごさんは、「日本で一番本を売るTikTokクリエイター」として知られている。
けんごさんは幼少期から野球一筋の生活を送っており、特に高校時代は野球漬けの毎日を送っていたそうだ。
それが、大学に進学すると野球のほかに「プライベートも楽しめるようになった」と言う。
「大学の野球部は寮生活だったんですが、幸いにも一人部屋で。野球の練習が終わった後やオフの日に楽しめる趣味をひとつ作ろうと考えたときに、小説に興味を持ったんです。コスパよく続けられる趣味を探していて、映画も迷ったんですよ。ただ当時は、Netflixなどのサブスクが普及しておらず、観たい作品は映画館に行くしかない。でも、2時間で1500円くらいかかるのはコスパが悪いと感じ、小説を読むことに決めました」
そんな何気ない気持ちで始めた読書だが、1冊目に選んだのは東野圭吾『白夜行』(集英社)だった。
この作品を読んで以来、けんごさんは小説の魅力に引き込まれていく。
初めの頃は月に1〜2冊のペースで読んでいた小説も、いつしか5〜10冊ほど読むようになったという。
「とにかく時間を見つけては、小説を手に取って読んでいましたね。月に何冊も購入するようになってからは、『コスパ悪いな』と思っていましたけど(笑)。でもそれだけ小説を読むのが好きだったんです。最初はミステリー小説が中心でしたが、次第にいろんなジャンルを開拓していきました。大学野球を引退する頃までに、およそ400~500冊は小説を読んだと思います」
そんななか、大学野球を引退した2020年11月にTikTokで小説紹介を始めることになる。
けんごさんは、TikTokで小説の魅力を発信するようになった経緯について「動画で何かやりたいと思っていた」と説明する。
「ちょうどコロナ禍になった2020年4月ごろは、アルバイトができなくなってしまって困っていたんです。なので、バイト代わりに動画編集の仕事を行って生活費を稼いでいました。その時に『動画配信をやりたい』と漠然と思うようになった。自分にできることは何かとアイデアを膨らませていくうちに『普段あまり小説を読まない人に向けて、小説の魅力を伝える』ことに行き着きました。
動画配信にYouTubeも考えたんですが、どんなにサムネイルやコンテンツを考えても、結局は小説に興味を持っている人しか視聴しないと感じました。他方でTikTokは、フォロワー以外のユーザーにも動画が拡散される仕組みがあるので、これなら自分がやろうとしていることが実現できると思い、TikTokを選んだんです」
TikTokで小説紹介の動画を投稿する際に意識していたのは「映画の広告」だったそうだ。
映画館で映画の上映前に流れるCM(シネアド)は、短い時間の中でも作品の面白さや世界観が伝わるような工夫がされている。
けんごさんは、シネアドを参考にして自身の小説紹介に応用していったという。
「観たい映画を鑑賞するために映画館へ足を運んだのに、シネアドの予告編やティザー動画が流れるだけで興味を持ってしまう、あの感覚がすごいなと思ったんですよ。要は映画の魅力が短時間で伝わるような工夫がなされているわけです。このシネアドを徹底的に研究し、小説紹介における『動画のつかみ』を意識しながら投稿していきました」
独自の審美眼で小説の読みどころをTikTokで発信し、取り上げた小説があっという間に品切れになるなど、大きなムーブメントを起こしているのだ。
一体、どのような感性や視点から小説をピックアップし、面白さが伝わるように動画で発信しているのか。けんごさんに、小説紹介をするようになった背景や今後の活動に対する目標について話を聞いた。
野球一筋の生活から一転、小説の魅力に引き込まれる
映画上映前に流れるCMを参考に、TikTokで小説紹介を始める
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1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
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