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やさしかった妻が突然、悪妻に豹変。むしろ離婚後に仲良くなれた理由とは

妻の訴えを適当にあしらっていたことが根本原因だった

「私のしたことが妻を傷つけたのが妻の攻撃の原因というのはなんとなくわかりましたが、私の親にまであんな態度をとる理由がよくわからなくて……」  僕は、土井さんの親も毒親、つまり加害的であった者である可能性が高いと考えます。GADHAのプログラムに参加した方のほとんどは親から傷つけられた人でもあります。人を傷つける考え方を植え付けられているんです。それ故に土井さんが気づいていないだけで、親御さんはパートナーの方を傷つける言動を大量に積み重ねている可能性が高いです。相手の親にすら攻撃的になるまでに、よほどの苦痛があったのだと考えられます。  困惑した様子の土井さんですが、僕は続けて質問します。 「これまでに親御さんとの関係について、パートナーの方に相談されたことはありませんか? その相談を適当に流したり、親の味方をしたりしていませんでしたか?」 「そういえば、よくある嫁姑問題だと思って適当にあしらったことが何度かあった気がします」  個別の人間関係で「普通」「よくあること」というのは通用しません。目の前にいるその人が傷ついている、その事実を重大なことと捉えられなければ相手はさらに傷つき、やがて関係は終わります。パートナーとの関係を修復したいと思うなら、まずは相手の気持ちがそこにあることを尊重してみることが大事です。 それから土井さんは、手探りながらもGADHAでやり取りを続けていきました。自分が被害者なのではないかと半信半疑の時期は続きましたが、半年後にこんな報告が入ります。 「実はこの前、離婚が決定的になったことを親に話したら家に押しかけてきまして……『息子は真面目に働いてきただけなのに、そんなことで離婚だ、子どもに会わせないだなんて大げさだ』と妻に言ったんです。 案の定、妻は『私が子どもを人質にしているとでも言いたいんですね』と挑発的で困惑しましたが、GADHAでのやり取りを思い出しながら『俺が傷つけたのに、俺の親にまで一方的に悪者にされて辛いよな。今までずっと君の気持ちを無視してきてごめん』と、妻の気持ちを想像して寄り添おうとしてみたんです。妻はとても驚いて固まっていましたが……そのくらいの時期から少しずつ妻の態度が軟らかくなってきました」

パートナーの意思を尊重できるようになってからは、「離婚した今のほうが幸せ」

 その後「一旦距離をおく時間を取りたい」とのパートナーの要望を尊重し、結果的に離婚することになったものの、最近は結婚していたころよりもずっと彼女が優しいんです、と語る土井さん。 「以前は『絶対に会わせたくない、あなたの顔も見たくない』と頑なだったのに、今では子供と一緒に毎週末会っています。不思議ですよね、離婚した今のほうが幸せなんです」  今回土井さんが変わった点は、「自分が人を傷つける考え方を身に着けてしまった原因である親に流されずに、パートナーの気持ちを想像し寄り添うことができたこと」だと言えます。  悲しいことですが、育った環境が原因で加害者になることは非常に多く、モラハラの改善には自分の親を疑うことが必要です。変容を進める中で、親と距離を取る人も少なくありません。  以前は「どちらが正しいのか」「普通なのか」にこだわり、パートナーの気持ちをないがしろにしていた土井さんが、パートナーの要望を尊重し、離婚してからも交流を持ち続ける新しい関わり方を「幸せ」と言うことができるようになったのはとても大きな変化です。 「結婚していたころよりもパートナーが優しくなった」のは、土井さんが奪い取ってしまっていたパートナーの優しさを返すことができたからではないでしょうか。  相手の傷つきを「些細なこと」「大げさ」だと捉えることをやめ、相手の気持ちに寄り添い尊重することこそが、人を傷つける関わり方を手放し、お互いを想い合う関係を築くために最も重要なことのひとつです。
DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:えいなか

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人間関係は“ことば”で決まる

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