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アルツハイマー型認知症やALS…“治らない病”に有望な治療法が

野放し状態のステム・セル・フリー治療

2014年11月に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(再生医療新法と略す)によって、これまで医師の裁量で自由に行われていた幹細胞治療に一定の規制が加えられるようになった。 具体的には再生医療を提供する医療機関にはリスクに応じた届け出と審査が義務付けられ、培養する細胞加工施設については設備基準がもうけられたのだ。しかし再生医療新法が施行されて8年がたち、「十分なエビデンスのない幹細胞治療がいまだあとをたたない」「再生医療等委員会のレベルに大きなばらつきがある」という問題が浮上しつつある。
上田実氏

上田実氏

こうしたなか日本再生医療学会は、培養上清などを使用するステム・セル・フリー治療(幹細胞自体を使わない治療)は再生医療新法の適応外であることを表明した。 つまりステム・セル・フリー治療では、医療機関に課される手続きは必要なく、培養上清などをつくる外部委託業者に対する規制もないと解釈できる。ステム・セル・フリー治療は事実上野放し状態にあるといえるだろう。 一方、アメリカではFDA(アメリカ食品医薬品局、日本の厚労省にあたる)が米ネブラスカで培養上清(エクソソームを含む)を投与された5名の患者に敗血症が発生したことを契機に安全性にたいして警鐘をならしている。日本においても、ステム・セル・フリー治療に対し、何らかの規制をもうけるべき時期に来たといえるだろう。  

費用対効果という大問題

さまざまな難病に対して効果が期待できるステム・セル・フリー治療。しかし私たちがその名を聞くことはほとんどない。なぜこの治療法が広まらないのだろうか。 「科学の世界では新しい治療技術の研究開発をするときに、将来それにかかる医療費のことを考えながら研究をすすめるのは邪道だとされてきました。でも、そうでしょうか? 医療費があまりに膨大になってしまうと、病気が治っても、やがて国の財政が破綻してしまうこともあり得るのです。要は、費用対効果、つまりある特定の医療技術を実施して得られる効果とそれに支払われる費用のバランスをとることが大事なのです。幹細胞治療が広く普及しなかった理由のひとつには、効果のわりに費用がかかりすぎる、ということあったといわれています。 でもALSの治療法の開発においてはこの問題は免除されるでしょう。ALSには採算性を度外視した迅速な対策が求められるのです。  われわれは今回の臨床研究を通じて培養上清治療がALSの症状改善に一定の効果があることを立証しました。これからなすべきことはできるだけ多くのALS患者さんにステム・セル・フリー培養上清治療を適応できる仕組みをつくることです」(上田氏、以下同)
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患者の費用負担はどうすれば軽くなるか
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医学博士。専門分野は再生医療・顎顔面外科。 1949年生まれ。1982年名古屋大学医学部大学院卒業後、名古屋大学医学部口腔外科学教室入局。同教室講師、助教授を歴任し、1990年よりスウェーデン・イエテボリ大学とスイス・チューリッヒ大学に留学。1994年名古屋大学医学部教授就任、2003年から2008年、東京大学医科学研究所客員教授併任。2011年よりノルウェー・ベルゲン大学客員教授。2015年名古屋大学医学部名誉教授就任。日本再生医療学会顧問、日本炎症再生医学会名誉会員として再生医療の研究と臨床の指導にあたる。株式会社再生医学研究所代表。近著に『改訂版・驚異の再生医療

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