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性犯罪事件の「難しさ」。加害者は“知人”が多い、“性的同意”の認識にズレも

立件を難しくする暴行・脅迫要件

――性犯罪で立件される事件は“氷山の一角”という話もありますね。 諸岡:女性の約15人に1人が性被害に遭った経験があるという内閣府調査がありますし、そのうち7割は仕事関係者や親族、教師など知人からの加害で、警察に相談するのは被害者の5%ほど。  立場や力関係を利用した事件は「暴行・脅迫要件」を満たす事案でなければ、強制性交等罪が成立せず、被害届も受理されない状況です。6月17日には16~24歳の若年層の約4人に1人が、被害を受けたことがあるとの調査結果も公表されました。性犯罪でパクられる事件としては、知らない人にいきなり襲われるような事件のほうが多いんですが、実際の被害の数としてはむしろ少ないということですね。 ――暴行・脅迫要件とは、なんですか? 諸岡:「服を破られた」「刃物を突きつけられた」「殺すぞと脅された」など、被害者の抵抗を困難にする行為の有無です。スウェーデンでは2018年にこの要件を撤廃し、不同意性交罪ができて、同意がない性交は一応すべて犯罪になりました。

専門家の意見も割れている

――知人男性と一緒に飲んでいて、襲われたようなケースだと、暴行・脅迫要件の立証は難しそうです。暴行・脅迫がなくても、女性が抵抗できなくなってしまうケースは多いはずですが…。 諸岡:実際、「被害者の不同意ではあるが、暴行・脅迫要件を満たしていないので無実」といった判決は多く、日本の法務省でも議論していますが、専門家の意見も割れているところです。本書のルポ1〜3は暴行・脅迫要件が深く関係した事件です。男2人が知人女性を襲った事件で、暴言で脅迫した男は有罪なのに、もう一人の男は2回射精しているのに起訴すらされてないという不公平感もあります。 ――乱交パーティーの報道も目立ちますが、関西地方などで“パンコ”と呼ばれる、複数の男性を一度に相手にする女性が被害者となった事件も取り上げていますね。 諸岡:昔から輪姦は悪質な性犯罪とされ、親告罪でなくても罰せられていました。もしも女性とモメたら強制性交等罪でもっていかれますが、同意の輪姦が法的にどういう位置づけなのか、これも答えが出ないようなところがありますね。
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相手と“性的同意”の認識にズレがある可能性も
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1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii

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ルポ性暴力
本書は、事件の公判記録や関係者への取材を通じて、報道からは伺い知れない性暴力の実態に迫ったルポルタージュである。また、事件の「その後」も可能な限り追いかけた。被害者が当時のトラウマを抱え、報道による二次被害などにも苦しめられているのに対し、加害者は……。性暴力の被害者と加害者が抱える深い闇。
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