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性犯罪事件の「難しさ」。加害者は“知人”が多い、“性的同意”の認識にズレも

相手と“性的同意”の認識にズレがある可能性も

夜の繁華街で手を繋いで歩く男女の後ろ姿――凶悪な性犯罪を多く取材されていますが、ごく普通の倫理観を備えつつ恋愛がしたいという一般男性は、今の時代どんな意識を持つことが大切でしょうか。相手との間で“性的同意”の認識がズレている可能性もあると思います。こちらだけが「合意のうえ」だと思い込んでいるケースも多そうです…。 諸岡:どんな据え膳な状況(相手から言い寄られた場合)でも1回デートしただけで関係を結ぶのはリスクがあるかもしれないですね。例えば3回目のデート(かつ相手から言い寄られた場合)なら、犯罪を成立させる構成要件も一般的には考えにくいかなと思います。 ――3回目のデートというのは、要するに裁判官が客観的に認めてくれそうな信頼関係などを証明できるかといった考え方ですかね。実際問題、いろいろ議論はあるかと思いますが、“性的同意”とは、どういう状況なのでしょうか。 諸岡:相手(女性)から家に招かれたなら、(現在の裁判では)ほぼ同意と見なされます。恋愛の慣習的に女性から家に招かれることって、中々ないと思いますので。一方、自分(男性)の自宅に招いた場合は、まだ同意がとれているとは言い難い状況です。 ――でも、女性が部屋に招こうがラブホテルに入ろうが、性行為の場面でYESでなければ「合意ではない」という見方が広がっていますよね。なのに、裁判では、ラブホテルに行くとその時点で“肉体関係を持った”と見なされると聞いたことがあります。 諸岡:普通に会話ができる状態でラブホに入れば、(裁判では)“その気があった”という推認を受けて同意していたと認められるでしょう。もちろん、睡眠薬などを飲ませて連れ込む輩もいるので、意識のない健忘状態の女性を担いで行くなどの特殊な状況は別ですが。あとは、2人きりのプライベート旅行も(裁判では)同意と見なされるかと思います。 ――「立場が上の相手だから断れなかった」という被害者の実情が、裁判では反映されていないんですね。当事者同士の関係性もありますが、まずはパワハラなどと同じく相手との力関係を自覚することが第一歩かもしれませんね。 諸岡:ちなみに力関係を利用した最たるものが親族間の性的虐待で、今は監護者性交等罪があるので、これに限っては暴行・脅迫要件なしで罪が成立します。

見たことも聞いたこともない事件が定期的に出てくる

――最後に、諸岡さんが最近追っている性犯罪事件について少し教えてください。 諸岡氏:加害者が弁護士の強制性交事件ですね。被害者が2人いて、どちらもキャバ嬢なんですが、弁護士が食事に誘って酔い潰した後、自宅で襲ったという。女性が抵抗すると骨折するほど顔面を殴ったらしいです。2人目の被害者は髪を掴まれながら髪の毛が何百本と引き抜かれても脱出し、通行人に助けを求めたので発覚したそうです。 ――必死で抵抗すれば立件しやすくなるということでしょうか。 諸岡:とくに夜道などでいきなり襲われると、被害者は固まってしまい、抵抗なんてできないと言います。また、抵抗すれば相手が逆上して命の危険に晒される恐れもあるでしょう。にもかかわらず、裁判で加害者から「抵抗しなかった」と主張されてしまうこともあるので難しいところです。  この弁護士の場合、肩書きを使って女性を言いなりにする、一種の性癖もある気がしています。その意味では、また新しいタイプの事件だなと。性犯罪ってこれだけ取材しても見たことも聞いたこともない事件が定期的に出てくるので、今後もそうした事件を掘り起こしていきたいです。 <取材・文/伊藤綾>
1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii
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ルポ性暴力
本書は、事件の公判記録や関係者への取材を通じて、報道からは伺い知れない性暴力の実態に迫ったルポルタージュである。また、事件の「その後」も可能な限り追いかけた。被害者が当時のトラウマを抱え、報道による二次被害などにも苦しめられているのに対し、加害者は……。性暴力の被害者と加害者が抱える深い闇。
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