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サカナクション山口一郎の「燃え尽き」休養。心が壊れるスターたちの苦渋

オンもオフも隠せないSNS時代

 NHKニュースのインタビュー(2022年4月28日)で、山口はこう語っていました。 <例えば自分たちがブランディングとして「こういうふうに見せたい」みたいなものに対して、リスナーであったり視聴者の人たちも、見抜く力がついてきたっていうか、たぶんそれもSNSの影響だと思うんですけど。だから、隠せなくなってきたっていう。隠せなくなってきた分、さらけ出さなきゃいけなくなったっていう、そういう時代なのかなとも思ってますけど。>  これは鋭い指摘であると同時に、気づいてしまったがためにそこに自身をしばりつける構図にもなり得ます。SNSでのやり取りもファンとの駆け引きの材料になり、創作活動のモチーフになるとしたら、文字通り公私の境目は消え去るからです。  筆者がサカナクションの音楽に感じる辛さとは、質が低いことではなく、むしろその逆で、表現と発言(思想)が高度に紐づけられていることの痛ましさなのです。「燃え尽き症候群だったみたい」との言葉がジョークに聞こえない理由です。

あらゆることがネットにアップされるプレッシャー

 現代におけるミュージシャンのメンタルヘルス問題は、欧米でも顕在化しています。主な要因は、やはりSNS。 「Burnout: What musicians in 2019 are ‘perpetually terrified’ about」(燃え尽き。2019年を生きるミュージシャンが’絶えずおびえる’もの BBC News 2019年7月17日配信 筆者訳、要約)という記事で、新鋭シンガーソングライターのサム・フェンダーが取材に応じています。音楽業界全体の問題としてアーティストの身体的、精神的な健康に気を配るべきだと主張するサムの発言を受け、問題を投げかけます。  ライブ中に誰もスマホで撮影しなかったのどかな時代とは異なり、いまは最悪のパフォーマンスをしてしまえばすぐに動画が拡散されてしまう。のみならず、プライベートの一挙一動も逐一ネット上にアップされてしまう。 <ソーシャルメディアと“常にトップでいなければ”という感覚が現代のミュージシャンに余計なプレッシャーを与える>  その一方で、SNSの気軽さは若いスターを簡単に祭り上げるイージーな環境も生み出します。こうした激しいアップダウンが、彼らのメンタルヘルスにダメージを与えるというわけなのですね。  良きにつけ悪しきにつけ、あらゆることが“自分”を中心に動いていく恐怖。 <ミュージシャンなんて、本当に空虚な商売だよ。四六時中自分の写真をながめては、自分自身について語ってるんだから>と、サム・フェンダーは嘆くのです。
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インタビューで語った「観念的」な内容
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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