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安倍氏殺害の山上容疑者「精神鑑定で4か月も留置」は口封じの政治的拘束か

山上容疑者の精神鑑定は政治的な理由によるもの!?

野田正彰さん 浅野ゼミゲスト講義 

野田正彰氏(筆者が教えていた大学のゼミにて) 

 県警と記者クラブの二人三脚による「自供」報道はそのまま信用できないが、山上容疑者の伯父の元弁護士が7月15日などに報道各社の囲み取材に行った説明は信頼していいだろう。  山上容疑者の鑑定開始で、「供述」情報はほとんど報道されなくなった。精神医学者でノンフィクション作家の野田正彰・元関西学院大学教授は「本人の供述は論理的でかつ一貫しており、鑑定は不要だ。鑑定するにしても2週間もあれば十分。彼を非正常だと印象付け、口封じを狙った政治的鑑定だ。彼の命が危ない。報道各社は監視すべきだ」と指摘する。  野田氏は8月2日、筆者の取材に「今回の鑑定は、精神鑑定の社会的意味をいい加減にする行為に当たる。世間において鑑定は、犯罪をおかしたにも関わらず、精神疾患に仕立てれば罪にならないと思う人がつくられてきたのは、こういうでたらめな鑑定へのプロセスが進行しているからだ」と指摘した。  また「報道と伯父の説明によると、今回は本人が明快な意思をもってしているのだから、『精神疾患の疑いがある』ということは彼を貶めると同時に、世間の犯罪と精神鑑定の関係を歪めることになるので、鑑定はすべきではない」と断じた。 「鑑定留置は騙しだ。しかも、起訴前鑑定で4か月は長すぎる。やる場合も、2週間あれば十分。警察・検察の意図がある。それでほとぼりを冷まそうとしている。『精神疾患はない』という鑑定が出ると思うが、『彼は正常ではない』という誤った印象を植えつけるためではないか。政治的な精神鑑定だ」(野田氏)

正当な鑑定がなされることは「絶対にない」

2019年7月9日、筆者の故郷である高松市内で、参院選の応援演説をした安倍晋三・元首相

2019年7月9日、筆者の故郷である高松市内で、参院選の応援演説をした安倍晋三・元首相

 さらに野田氏は「精神鑑定が始まったので、専門医は何をすべきかを言いたい」と、次のように語った。 「山上容疑者は、はっきりと自分の意思があり、思考もよどみがなく、自分の見解をきちんと言える人だ。まず生い立ちから聞き、父と兄が自殺し、父母がどういう過程で行き詰まり不幸になっていったか。母が統一協会によってどう変わっていったか。家族、自分が将来思っていたことがどう変わったか。それをしっかり聞き取らなければならない」 「鑑定医は彼に共感し、感情移入して聞き取っていかなければならないが、日本の現状でそういうことができる精神科医がいるとは思えない」  大阪拘置所には精神科医がいるかどうかを聞くと、野田氏は「非常勤の精神科医はいると思う。マスコミが殺到するから誰が鑑定するかは公表しない。鑑定留置で、正当な鑑定がなされることは絶対にない」と断言した。そしてこう続けた。 「精神科医はほとんど診察しないで、放っておく。鑑定料は約40万円で、書くだけで消耗する。欧州などでは精神鑑定医の制度があるが、日本は何もない。不要な薬は出さないだろう。弁護士がついているので、薬を飲ませたり強制的に注射をしたりすれば、弁護士に言うのではないか」 「拘置所のほうが空調があり、差し入れが比較的自由ということはある。検察・警察に日夜呼び出されるということはなくなる。メディアは鑑定留置について、まったく批判しない。『思い込んだ』というが、彼が思いこんだという言葉を使うはずがない。思い込んだというのは偽造だ。記者は、『思い込んだという言葉を本人が使ったのか』と聞くべきだ」
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山上容疑者に手紙を送ったが…
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1948年生まれ、ジャーナリスト。元共同通信記者、元同志社大学教授。『犯罪報道の犯罪』ほか著書多数
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