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安倍氏殺害の山上容疑者「精神鑑定で4か月も留置」は口封じの政治的拘束か

メディアは「安倍元総理の政治信条への恨みではない」と強調

安倍元首相の葬儀が7月12日、東京の増上寺で営まれた(撮影・横田一)

安倍元首相の葬儀が7月12日、東京の増上寺で営まれた(撮影・横田一)

 筆者は1984年に出版した『犯罪報道の犯罪』以降、事件報道の被疑者・被害者の匿名報道主義(公人の職務上の嫌疑の場合は顕名)を提唱しているが、この事件は統一協会の悪質性を社会に訴えるために最高実力者の政治家を暗殺した事件として、山上容疑者を顕名にする。  安倍氏暗殺事件では、「山上容疑者は安倍氏の政治姿勢には反対していない」という世論誘導が目立った。NHKは事件の約4時間後<警察当局によると、現場で逮捕された41歳の容疑者は「安倍元総理大臣に対して不満があり、殺そうと思って狙った」という趣旨の供述をしている一方で「元総理の政治信条への恨みではない」とも供述している>などと報じた。  続いて、日本テレビも<調べに対し「殺そうと思って狙った」などと話していることが新たにわかった。一方で、山上容疑者は「安倍元首相の政治信条に対するうらみではない」とも話していて、これまでのところ容疑者について事件につながるような思想的背景や組織的背景については確認できていない>と伝えていた。他社も「捜査関係者への取材で分かった」と同様の報道を行った。  奈良県警の山村和久捜査1課長らは8日午後9時半、県警4階の会議室で記者会見を開いた。山村氏は「被疑者山上は逮捕後の取り調べ時、『特定の団体に恨みがあり、安倍元首相がこれと繋がりがあると思い込んで犯行に及んだ』旨本人が供述しているが、以下詳細については差し控えさせていただく」と述べた。県警は、団体と安倍氏に繋がりがあると「思い込んだ」と公表した。  山村氏は記者の「殺意については」の問いには、「行為について、私がしたことに間違いございませんと弁解録取ではしている」と回答。「特定の団体とは」という質問には「答えを差し控える」とした。  県警と報道各社は参院選が終わり、田中富広統一協会会長が11日に記者会見するまで、統一協会の実名を伏せた。

「供述」は警察が流しただけ。真実はわからない

 重大事件で、警察が被疑者の動機などの起承転結を、発生から半日以内に報道各社にリークしたのは極めて異例だ。松本サリン事件の報道被害者、河野義行・元長野県公安委委員は「捜査官が職務上知り得た情報を民間企業である報道機関に漏洩するのは、地方公務員法の守秘義務違反に当たる」と指摘する。  警察が無実の市民を犯人にでっち上げようとしたり、拷問などの違法捜査が行われていることを報道関係者に知らせたりする内部告発は許されるが、被疑者が密室の取調室で刑事に話した内容が、真実のように垂れ流されるのは異常だ。  メディアが取調室に盗聴器を仕掛けるか、被疑者の供述を聞ける超能力者を雇う以外に、被疑者の供述は分からない。記者クラブの社員記者たちは、県警幹部、捜査官への夜討ち朝駆けの“御用聞き”取材で、供述情報を警察官からもらっているのだ。警察側は若い記者たちを完全に統制できる。参院選投開票の3日前に起きた元首相暗殺事件では、警察庁・警視庁トップによる意図的な情報操作があったと思われる。  ましてや現在の日本警察のトップである中村格警察庁長官は、安倍氏に最も近い警察官僚だ。中村氏は警視庁刑事部長だった2015年、伊藤詩織氏が告訴した性暴力被疑事件で、山口敬之・TBSワシントン支局長(当時)の逮捕状執行をストップさせた人物だ。山口氏は安倍氏に近く、安倍氏礼賛本も上梓している。中村氏らが安倍氏暗殺に関する取材・報道でメディアに圧力をかけたのではないかと筆者は疑っている。
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山上容疑者の精神鑑定は政治的な理由!?
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1948年生まれ、ジャーナリスト。元共同通信記者、元同志社大学教授。『犯罪報道の犯罪』ほか著書多数
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