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「VRが引きこもりから救ってくれた」世界最大のメタバースイベント仕掛け人「動く城のフィオ」が語る

アバター姿しか見せない理由

メタバース会議

HIKKY社のメタバース会議風景

――なぜアバター姿で活動しているのですか? 「大きな理由として私は2017年に突如、対人恐怖症になってしまったんです。人の視線が怖くなって、生身の人と相対したり外出したりすることが苦手になってしまいました。どうやらセロトニンというホルモンが分泌されにくくなったため、ストレスに過度に弱くなってしまったみたいなんです。  それで通勤電車にも乗れなくなって、当時働いていた会社に迷惑がかかるので退職して引きこもりになってしまいました。だけどアバター同士ならば抵抗なく会話ができました。それで以後はアバターで対外的なコミュニケーションをとるようになったんです。最近ではZoomなどでリアルな人と会話することはできるようになりました」 ――そのうつ病は治らないのですか? 「ホルモン分泌は脳の構造の問題で、職場のストレスなどでかかる外因性のうつ病と違って、治りようがない一生モンなんです。どうしたらよいのかと本当に絶望しました」 ――その状態から、どうやってメタバース企業の役員になるまで社会復帰したのですか? 「半年間、絶望したままベッドにこもりっきりで、TwitterとYouTubeばかり見ていました。そんな中でVTuberブームが起きて、ある時、界隈で有名だったVTuberが『これからバーチャル空間に王国をつくる』と宣言しました。それを聞いたときに、バーチャル空間に国ができれば、そこに活路があるかもしれないって思ったんです。思いこんだんですね。  それで自分のアバターを作って、VRChatに入って仲間が増えていってイベントをやるようになりました。そうして必要性に迫られてアバターの即売会を開くようになり会社を作ることになって、企業協賛もついて収益が出るようになっていったのです」

引きこもりが作ったメタバース企業

フィオさんが手探りで自作したアバター用3Dモデル

フィオさんが手探りで自作したアバター用3Dモデル

 とんとん拍子に見えるが、それを担保しているのがフィオさんのずば抜けた能力だ。そもそも、素人が3DCGアバターを作るのは容易なことではない。それをフィオさんは当時、無職で時間があったとはいえ2週間ほどでオリジナルの3DCGアバターを制作している。  3DCGモデルを制作するには、PCとネットさえあれば十分ではある。お金もプログラミング知識もほとんど必要はないのだが、無料で入手できるUNITY、Steam、Blenderなどのソフトを使いこなすのはたいへんな作業だ。しかも当時は、解説動画や解説記事もなくテキストもほとんどが英語だったという。その一方で、フィオさんがメタバースと親和性が高かった点もある。もともと漫画やゲームを趣味で作っていたというクリエイター・エンタメ気質であったのだ。 ――会社設立のきっかけは何だったのですか? 「VRchatで活動していてもお金にはなりませんでしたが、それでも生きていられました。昼はベッドから出られず寝ていて、夜はどっぷりとVRchatの世界にはまるという生活をしていました。バーチャル空間でゲーム大会やイベントを開いたり、企業にゲームの景品を協賛で出してもらったりするくらいはやっていました。  そうやって動いていたらいつの間にか目立つようになっていって、舟越靖さん(現・HIKKY社CEO)や現HIKKYクリエイティブディレクターのさわえみかさんから『一緒に何かやらないか』と声をかけられたんです。  3Dアバターや3DCGモデルを交換したり販売したりする場が必要だと常々思っていたので、コミックマーケットのような『バーチャルマーケット』(Vket)を作ろうということになりました。そして、舟越さんが『今後のことを考えて、会社組織を作った方がよい』と、HIKKYを設立しました」
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2回目の開催で収益化、企業が続々と参入
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メタバース革命 バーチャル経済圏のつくり方

「メタバースで生きていく」という新たな選択肢。どんな仕事が生まれ、どんな技術が必要なのか。急成長するバーチャル経済圏の現在を伝える。

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