デジタル

「VRが引きこもりから救ってくれた」世界最大のメタバースイベント仕掛け人「動く城のフィオ」が語る

2回目の開催で収益化、企業が続々と参入

JR東日本のバーチャル秋葉原駅

JR東日本の「バーチャル秋葉原駅」

 HIKKYでは舟越さん、さわえさん、フィオさんらがボードメンバーに就任した。とはいえ、1回目のバーチャルマーケットは手弁当で開催。当時、3Dアバターを制作できるクリエイターのほとんどが出展し、大きな反響があったという。  手ごたえを感じたフィオさんらは2回目のバーチャルマーケットを半年後に開催することに決め、営業力のある舟越さんが企業を次々に誘致。JR東日本など感度のいい企業が次々とイベントに参加するようになり、2回目にしてバーチャルマーケットは収益化が実現した。当時、バーチャル空間でマネタイズすることは非常に珍しいケースだった。  その後、バーチャルマーケットは半年ごとに開催するようになり、今年8月には7回目のバーチャルマーケットが開かれ、延べ100万人以上が参加、60企業が出展した(次回は12月)。2021年11月にはNTTドコモが同社のXR戦略のためHIKKY社と資本業務提携、65億円を出資している。メタバース産業は着実に拡大を続けている。  フィオさんは9月末に『メタバース革命 バーチャル経済圏のつくり方』(扶桑社)を上梓、そこではVR系メタバースの職種や仕事内容が詳しく紹介されている。メタバースではどのような職業があり、どのような技術や経験が必要かなど実践的なもので、何千時間とメタバースで暮らし、働いてきたフィオさんならではの内容だ。HIKKY社員の生活も紹介していて、パニック障害を抱えていたり、子育て中のシングルマザーなどがメタバースを活用して勤務時間を調整したりといった、働き方の一端も知ることができる。

バーチャル空間では「自分が何をやりたいか」が重要

パラリアルニューヨーク

メタバース空間にニューヨークの街を再現した「パラリアルニューヨーク」

 フィオさんにはバーチャル空間ではアバターとアバター名しか知らない友人・知人が多く、不思議とそれで信頼関係も構築できているという。 「物理社会では顔や肩書や本名が気になるものですが、バーチャル空間では<自分が何になりにきたのか><自分が何をやりたいか>という点を軸に会話します。私もそこを重視してきました」  バーチャルマーケットの仕事をメタバースで知り合った人物に発注したところ、契約の段階で高校生だと知って慌てたこともあるそうだ。今のメタバースでは、「やりたいこと」と「スキル」があれば、年齢や居住地に関係なく仕事をしていける状況にあるということを示す例だ。 「最近はメタバースと呼ばれて注目されるようになりましたが、このバーチャル空間で仕事ができるならば、アバターの姿でしか活動できない私も生きていけます。私のような対人恐怖症の人たちだけでなく、物理社会ではさまざまな制約があって働きづらい立場の人たちがいます。その人たちのためにも、これからバーチャル経済圏をちゃんと作っていきたいんです。メタバース人材はこれからどんどん生まれてくるのですから」  新しい経済圏はもう生まれている。この動きはますます加速していくだろう。 取材・文/楠木春樹(ライター)
1
2
3
メタバース革命 バーチャル経済圏のつくり方

「メタバースで生きていく」という新たな選択肢。どんな仕事が生まれ、どんな技術が必要なのか。急成長するバーチャル経済圏の現在を伝える。

おすすめ記事