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「VRが引きこもりから救ってくれた」世界最大のメタバースイベント仕掛け人「動く城のフィオ」が語る

急成長するメタバース市場

動く城のフィオ

「動く城のフィオ」さん

 矢野経済研究所が9月21日に発表した予測によれば、国内メタバースの市場規模は2021年には744億円だったが、2026年には1兆円を超えるという。10月にはVR展(VR、AR、MR)という見本市が幕張メッセ(千葉県)で開催され、多くのメタバース企業も集まる。VR(仮想現実)、メタバースへの関心は高まるばかりだ。  2021年にフェイスブックがメタ社に社名を変更するまでは、「メタバース」という言葉は一般的ではなかった。それがいまやさまざまなバーチャル空間がメタバースと呼ばれるようになり、メタバースの概念は広がっている。一般的には背景にする業界別に3つにわけられることが多いようだ。ゲーム系、Web3系、VR系である。  ゲーム系メタバースは米「フォートナイト」などオンラインゲームのプレイヤーが仮想空間で楽しんできた世界。このオンラインゲームを基盤(プラットフォーム)にさまざまなサービスが提供されている。  Web3系メタバースはブロックチェーン技術を基盤に仮想空間の土地やアートを暗号資産(仮想通貨)で購入して投資をしたりする動きだ。  そしてVR系メタバースは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD、VRゴーグル等)を被り、多人数が思い思いのアバター姿で仮想空間の中でコミュニケーションを楽しむものだ。ソーシャルVRとも呼ばれ、SNSの3D版ともいえる。  今夏大ヒットした映画「ONE PIECE FILM RED」でも、ウタが創り出す「ウタワールド」という物理法則を無視した仮想空間はVR系メタバースのイメージに近い。細田守監督の映画「サマーウォーズ」や「竜とそばかすの姫」はもっと直接的にメタバースを描いてきている。映画を見ればわかるように、別人格として仮想世界を楽しむという、もっとも仮想空間らしい存在がこのVR系メタバースだと言っていいだろう。  VR系メタバースは、もともとは米国のVRChatというプラットフォームに世界中からアバターが入り、2万を超えるワールドの中で交流を楽しんできた世界だ。バーチャルでのイベントやライブも開かれてきている。日本でもclusterやREALITY(スマホ向けメタバース)などのソーシャルVRのプラットフォームが広がりを見せている。

VR系メタバース仕掛け人の素顔

Vket2022s_カスカアクア (2)

バーチャルマーケット2022Summerで制作した、ファンタジーな”水の都”風会場

 とはいえ、まだまだ草創期にある国内VR系メタバースだが、2021年2月には「バーチャルリアリティマーケットイベントにおけるブースの最多数」でギネス世界記録に認定されたイベントがある。国内メタバース企業のVR法人HIKKYが主催する、3DCGモデルの即売会や企業の展示会、「バーチャルマーケット」(Vket)である。そして、このイベントの発起人が「動く城のフィオ」さんだ。  フィオさんは日常的にアバターの姿で活動しており、本名もリアルな姿も非公開。HIKKY社のCVO(最高バーチャル責任者)を務めていて、HIKKY社のウェブサイトにも役員の一人として「動く城のフィオ」の名前で、アバターの画像が掲載されている。  同社の広報によれば、社員でも実物のフィオさんの姿を見た人は少ないそうだ。まるで、バーチャル空間で生まれて、リアルの世界にやってきた、そんな印象すら受ける。HIKKY(ヒッキー)という社名も「引きこもり」の俗称である「ヒッキー」から来ているらしい。  そこで、メタバース界でも異色な存在である「動く城のフィオ」さんに話を伺った。取材はZoom(ズーム)やDiscord(ディスコード)など、すべてオンライン上で行った。 ――フィオさんの姿を知っているHIKKY社員はどれくらいいるのでしょうか? 「数人ですね。都内にあるオフィスに出社したのは2~3回ほどです。地方や海外在住の人もいますので、基本的にオンラインで会議や打ち合わせをしています。アバターの姿で出席しています。HIKKYでは社内イントラネットでもアバターやアバターネームのままで参加している人がいますので、そういう出社方法は会社的に違和感がありません。  バーチャルの世界は顔や本名を気にする物理社会と違います。コロナ禍で非接触、リモートワークが広がりましたが、HIKKYでは2018年からZoomを使っていたし、バーチャルマーケットをやっていたのでバーチャル空間(メタバース)でもみんなで集まって打ち合わせをしていました」
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アバター姿しか見せない理由
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メタバース革命 バーチャル経済圏のつくり方

「メタバースで生きていく」という新たな選択肢。どんな仕事が生まれ、どんな技術が必要なのか。急成長するバーチャル経済圏の現在を伝える。

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