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プロ野球への新たな登竜門となるか「ジャパンウィンターリーグ」が沖縄で初開催中

プロ注目選手も参加するも、まだ否めない認知不足

 初年度の今年は、70名のリーグ参加希望の応募があった。内訳としては、社会人が大部分を占め、高校生がひとり、大学生はゼロと、まだまだ認知不足が否めない。平日も試合が開催されることから、学生は授業との兼ね合いもある。今後、研修や就職活動の一環として教育現場の理解を得られるかが課題だ。  チームは4つに編成され、週5日、1日2試合を行っている(月曜、金曜がオフ)。試合は7イニングス制で、試合後のヒーローインタビューや、観戦に来てくれたファンとの交流を意図したイベントなども行なわれている。  プロ注目の選手も複数人参加している。広陵から早稲田に進学した身長2mのサウスポー、今西拓弥(23歳、Honda所属)もそのひとりだ。今西は開幕戦からコーナーを丹念に突く小気味良いピッチングを披露。また、今年Hondaに入り、今西とチームメイトとなった大型捕手、岩本久重(23)もプロの注目を集める選手。大阪桐蔭時代は1年時から試合に出て正捕手として徳山壮磨(DeNA)とバッテリーを組んでいたが、度重なる怪我により甲子園は出場できず、早稲田に進学後、3年春から四番を張っていた。岩本が意気込みを語る。
ジャパンウィンターリーグ

岩本久重選手(Honda所属)

「違う環境でプレーする選手と野球をできる機会は滅多にないですし、意見交換して異なる野球観を共有しながらプレーできる日々は大変刺激的です。社会人のトップクラスのピッチャーと見比べると、スピード、コントロールともに落ちますが、自分はキャッチャーなので、いろんなピッチャーをリードする上で勉強になっています。経験を積むことに無駄はありませんから」  両選手が所属するHondaは実戦不足を解消するためにルーキーを中心に派遣している形だ。  また外国人選手も7人参加しており、そのうち4人がベース内に居を構えている。残りの3人はウガンダ出身が2人と、キュラソー出身がひとり。もはやサッカー同様、世界のマーケットはアフリカが照準となっていると言っても過言ではない。

目指す目標は選手それぞれ

 ウガンダ出身のMUSAは参加者最年少の16歳で、NPBに入りたいという夢を持つ。
ジャパンウィンターリーグ

ウガンダから参加する、リーグ最年少のMUSA選手

「肩には自信がありますが、バッティングやインサイドワークなどまだまだ課題がたくさんあります。みなさん、僕より年長者ですが、とても仲良くさせてもらって楽しくプレーしています。ニューヨーク・ヤンキースのキャッチャーのホセ・トレビーノが好きなプレーヤーです。まずは、日本でプロフェッショナルプレーヤーになることが夢です」  また異色のキャリアを持つプレイヤーとして、小川龍馬(31)も注目に値する。小柄ながらもパワフルな打撃でチームの中でも人一倍躍動している小川だが、名門・横浜高校出身ながら明治学院大学に進学すると野球を続けず、神奈川県トップクラスの公立校、湘南高校でコーチをやっていた。大学卒業後はJICAによって2年間セネガルで野球の普及を務め、帰国後、島根の私立高校の教師を5年半勤めたのちにウィンターリーグに参加するため教員を辞めた。
ジャパンウィンターリーグ

小川龍馬選手

「もう一度野球をやりたいなと思っていた矢先に、ウィンターリーグのことを知ったんです。鷲崎代表とは知り合いでもあったので、教職を辞めて参加しました。自分は、ヨーロッパで野球をやりたい意思があるので、この機会でなんとかアピールし、ルートを探したい」  すべての参加選手が、NPB入りを目指しているわけではない。世界中にプロフェッショナルのベースボールリーグが存在する以上、いろいろな手段と目的があってしかるべきだ。大切なのには納得いくまで野球を続けられる否かだ。

すでにオファーが舞い込んだ選手も

 前出の大野倫GMは、第一回目のウィンターリーグを見て現時点での問題点をこう考察している。 「選手レベルのばらつきは確かにありますが、社会人や独立リーガーがチームを引っ張り、全体のレベル維持に繋がっています。今後、プロや海外選手の参加で、プロアマの規定に沿ってカテゴリー分けやチーム編成をしていく必要があります。プロ野球のシーズンオフに開催するので、特に投手の仕上がり具合が心配されましたが、試合をこなすことで本来のパフォーマンスが戻っています」  鷲崎代表もこう締めた。 「日本人は、諸外国の選手と比べてまだまだ自己アピールという点で劣り、常に“待ち”の姿勢でもあります。自らのプレーをビデオで撮って送るくらいの気概ないと、そう簡単に道は開かれません。僕らがこういった場を提供していても、結局はプレーヤー自身の熱量次第ですから。世界中のプレーヤーたちが『ジャパンウインターリーグに参加すれば活路が見出せる』と思うほどの規模にリーグを成長させたい。真のトライアウトというものを日本に根付かせたいです」  前期終了の12月11日の時点で、すでに10数名に独立リーグのオファーが舞い込んでいる。今後はオファーがなかった選手にも、働きながら野球をする道を手助けできる形を整えていきたい考えだ。  まだ始まったばかりのジャパンウィンターリーグ。アマチュアのトッププレーヤーたちは別として、それ以外にも隠れた逸材が必ずいるはずだ。埋もれた才能を枯らさずに世に出してあげることも野球人の務めだと、鷲崎代表、大野GMは堅く胸に秘めているのだ。
1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。最新刊は『92歳、広岡達朗の正体』。著書に『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。

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