①有名アーティストのマネをさせてみる。
これはニック・ケイヴのファンと同じやり方ですね。大御所で試してみましょう。「Write lyrics in the style of Bob Dylan」と入力します。
ほんの数秒で3番まである歌詞ができあがりました。今回ChatGPTが出してきたのはこんな感じ。
歌いだしは、<There’s a world of trouble out there And a whole lot of confusion in the air>(どこかに苦悩に満ちた世界があり、至るところで混乱に包まれている 筆者訳)。「trouble」も「confusion」も、いかにもディランが使いそうなワードです。そして「there」と「the air」できっちり韻を踏む。なんとなくよさげな雰囲気ですが、サビはどうでしょう。
AIが書いたボブ・ディラン風の歌詞
<The times they are a-changin’>(時代は変わるもの) まんまディランの曲。パクリはいかんでしょ!! でもChatGPTはおかまいなしでポジティブに締めくくります。<But we’ll keep on keepin’ on Until the darkness is gone>(暗闇が消え去るまで、あきらめずに頑張りつづけるんだ)
うーん、ディランはこんなこと言わんぞ…。苦難や闇をそのまま放っておくからです。「Political World」という曲から一節引用しましょう。
<We live in a political world Where courage is a thing of the past
Houses are haunted, children are unwanted
The next day could be your last>
(私達は政治的な世界の住人 勇気が過去の遺物であり 住宅は抜け殻
子供らは望まれず、明くる日が最期かもしれない世界 筆者訳)
ChatGPTとは異なり、ディランはこうした状況に何らかの判断をくだしません。道徳的な価値判断ではなく、状況を記す言葉の構築そのものにおいて美醜の評価を与えるのです。
AIが考える「サザンの歌詞」って?
次に日本のアーティストでも試してみましょう。ChatGPTは日本語にも対応していますので、「桑田佳祐みたいな歌詞を書いて」と入力します。こちらも数十秒たらずで詞ができあがりました。
大切な誰かと一緒にいることの素晴らしさ、それがあれば苦難も乗り越えられるといった内容に続いてサビがやってきます。<歩き出せば、明日が見える 輝く未来へと、僕らは行こう>
いいことを言いますね。でも、桑田佳祐の場合はもっとはっちゃけます。たとえば「東京VICTORY」の、<友よ Forever young みんな頑張って それ行け Get the chance!!>というフレーズ。説明口調のChatGPTに対して、ぶつ切りで呼びかける桑田。人間(桑田)はあえて理屈をスキップしてニュアンスを強調するものを、AIはどうしても論理的なテキストにしてしまうのですね。
以上からAIの特徴、もっと言えば弱点が見えてきます。それは歌詞にオチをつけずにいられないこと。創作のモチーフとなっている題材の中でも、建設的に解決すべき問題だと認識してしまうわけです。
部分部分で使われる単語の種類や、ワンフレーズのムードはそれなりに再現できても、歌詞全体の文脈としてのトーンは理解できていない。そんな印象を持ちました。