春日：僕の仕事で言うとね、例えばとんでもないパーソナリティー障害の患者が外来に来たりするわけ。当然、最初は見抜けないの。そんなサインなんてないから。ただ、違和感として感じるわけよね。「微妙にしゃべることと表情が釣り合ってない」とか、ほんのちょっとだけね。もう、言語化できないレベルの違和感を感じるんだけれど、それはだいたい当たるわけよ。 平山：うん。 春日：だけど、それはカルテにすら書きようがない。「なんとなく、こいつ変」とは書けないからさ（笑）。 平山：そうだよね。 春日：生活の知恵として、違和感を感じたらそれは大概正しいわけ。ただ、違和感って気持ち悪いから理論で説き伏せちゃうよね。そうすると必ずひどい目に遭う。だから、違和感を持ち続けるだけの度胸と覚悟を持たないといけない。 平山：俺、取材でギャヴィン・ディー・ベッカーのところに行ったの。アメリカのストーキングの権威で、フォード大統領の顧問もやってた人。ストーキングなどの資料だけで100万件ぐらい持ってる。脅威査定のソフトも作ってるの。彼曰く、ストーカーの被害者は女性が多いけど、90％は春日先生が言う「違和感」を持ってる。 春日：うん。 平山：暴行や被害を受ける前に違和感を抱くらしい。道ですれ違うとき、「なんか変だな」と思う。気の迷いで済ませたら、やっぱり巻き込まれたとか。 　ある女性が『スターウォーズ』の初日に並んでいる行列を眺めてたら、手を振って自分を呼ぶ見知らぬ人がいる。「実は彼女が来ない。券が1枚あるから一緒に観ませんか？」って。やっぱり違和感があったんだけど結局、一緒に観ちゃって。そしたら駐車場で脅されて強姦されちゃったとか。 　買い物でエレベーターに乗ろうとしたら入ってきた男がいて、普通なら用心して出ちゃうけど、荷物がいっぱいで。「僕が部屋まで持ってってあげるよ」って。断ると親切を無下にする気がして頼んだら、次の日まで延々と強姦されてしまった。 　で、ベッカー曰く、「ほぼ100％に近いぐらい、実は女性が抱く違和感は正しいんだ」って。彼はこれを「ギフト」って呼んでたの。 春日：ふむ。 平山：女性や子供、弱い立場の人が持っているギフトなんだって。このギフトはほぼ間違いない。ただね、難しいのは「断ったりして安全だった場合」の結果が分かんないのよ。