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突然の地方移住。元DJの47歳主婦が語る「私が“山の上のパン屋”をはじめたワケ」

体に良くて健康にもいいパン屋

 ただ好きなことをやっているだけではない。理念がしっかりとあって、それが伝わる店づくりはとても良いなと思いました。だから、自分もせっかくお店をやるなら誰かの役に立ちたいと、自然と考えるようになりました。お店を通して誰かを幸せにできたらいいなと。  じゃあ私はどうしようと考えた結果、「なるべく良い選択肢を、なるべく押し付けない形で提供する店にしよう」と決めました。なるべく体に良くて、環境にも良い、そんなパンを提供する。そうすれば、自分に関わる人たちがみんな、無理せず健康的に暮らせるのではないかと思ったのです。  ですから、最初は「天然酵母」や「国産小麦」という言葉を看板に書いていました。すると、自然派志向のお客様が集まるようになっていきました。ただ、この一手が望まぬ状況を生んでしまったのです。

自然派志向が生んだ望まぬ状況

山の上のパン屋

平田はる香『山の上のパン屋に人が集まるわけ』(サイボウズ式ブックス)

 もちろんいろんなお客様がいらっしゃるのは望んでいたことなのですが、逆に、自然派志向を持つ方以外のお客様を遠のかせてしまっているなと感じました。  開業した2009年の当時は、まだ環境問題やトレーサビリティに対しての問題意識が低い時代で、そういった思想は一部の人だけが意識している状況でした。長野だとますますニッチになってしまい、マクロビオティックやヴィーガンの方がふつうに買い物できる店が少なかったので、目立ったということもあったと思います。 「家族が自分の食への考え方を受け入れてくれないのだけど、説得するにはどうしたらいいか」とか「アレルギーが出るのだけど何を食べたらいいか」といった相談を受けることが多くなり、困惑してしまいました。  私は誰かに健康意識を押し付けたいのではなく、おいしくて体に良いパンを食べてほしいだけなのに、偏っていく客層に、少し違和感を覚え始めたのです
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看板から「天然酵母」の言葉を外したら…
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1976年生まれ。2009年長野県東御市の山の上に趣味であった日用品の収集とパンの製造を掛け合わせた店「わざわざ」を一人で開業する。段々とスタッフが増え2017年に株式会社わざわざ設立した。2019年東御市内に2店舗目となる喫茶/ギャラリー/本屋「問tou」を出店。2020年度で従業員20数名で年商3億3千万円を達成。2023年度に3,4店舗目となるコンビニ型店舗「わざマート」、体験型施設「よき生活研究所」を同市内に出店予定
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山の上のパン屋に人が集まるわけ

健やかに、年商3億円

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