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回転寿司から「100円サーモンが消えた」理由。ウクライナショック、輸送コスト、円安で価格高騰!

ハラスの相場は3年前から40%高騰している

 話は変わりますが、回転寿司の定番メニューに「とろサーモン」という、脂の乗ったハラスという部位があります。もともとハラスは欧米で食べる習慣がなく、骨取りフィレとして輸出される際や、スモークサーモンなどの加工品を製造する際に切り落とされ、捨てられていました。それに目を付けた日本人が原料として安く買い付け、加工していたのです。

トルコ産サーモンがスーパーに並ぶ日

 しかし、最近では生産者がハラスの商品としての価値に気づき、安く販売することを嫌がり始めています。日本食が広まるにつれ、ハラスの美味さに海外の人たちも気付いたからです。加えて、前述したようなノルウェー産アトランティックサーモンの高騰もあり、切り出したハラス部分が買い叩かれるならいっそのこと、切り出す事を止めようと考える企業も増えたと聞きます。  そのため今、ハラスの原料調達は非常に苦労するようになりました。ハラスの寿司ネタスライスの相場は私の知る限り、3年前より40%前後も上がっており、グレードによってはキロ当たり3000円になっています。ハラスもサーモンの価格に肉薄するなか、やはり回転寿司の低価格ネタのラインから姿を消す可能性があるのです。  ただ、日本の水産業界も全くの無策というわけではありません。これまで日本とほとんど取引がなかった産地に、サーモンやトラウトの新たな仕入れ先を見いだそうとする動きが活発化しています。  その代表例がトルコ産トラウトです。同国産トラウトの2022年輸入量は冷凍ドレス(頭部と内臓、エラを取り除いた状態)などが前年比5.3倍に急増。生食用として扱われることも多い冷凍フィレも前年比2.2倍と大きく伸びています。市場におけるシェアを見ても、2021年は10%程度だった冷凍ドレスなどは2022年に30%台に急伸。冷凍フィレも同5%程度から10%台に伸びています(『みなと新聞』2023年2月4日付)。
回転寿司

安価なサーモン供給のために、トルコ産トラウトの仕入れや、国内養殖への投資など、日本の水産業界も努力を重ねている

 すでにノルウェー産やチリ産サーモンの代わりにトルコ産トラウトを寿司ネタとして提供している回転寿司チェーンも少なくありません。味のほうも引けを取らず、好みの問題ではありますが、トルコ産トラウトが一番うまいと言う人も少なくありません。そしてこのトルコ産トラウトは今後、輸入量が拡大していくものと思われます。  すでに養殖の歴史が長いノルウェーやチリでは、過密養殖による伝染病や環境汚染の問題を防止するため、業者へのライセンス発行をストップさせています。つまり新規参入ができないのです。一方、トルコは政策としてトラウト養殖をバックアップしており、海面養殖の新規ライセンスも発行しています。スーパーの鮮魚コーナーでトルコ産トラウトが堂々と並ぶ日も近いでしょう。  さらにもうひとつ、今後大きな話題になりそうなのがアトランティックサーモンの国内陸上養殖です。三重県津市では、すでに年産1万tを見込むアトランティックサーモンの陸上養殖施設が建設中です。この施設を保有するのは、世界的なアトランティックサーモン養殖事業者の日本子会社です。  ほかにも、大手商社と水産商社が組んで投資・開発する計画が2025年以降相次いでいます。円安が進み、海外からの原料調達価格が大幅に上昇する今、この国内養殖サーモンが救世主となるのか、注目です。 (取材・文/小平桃郎 写真/フォトライブラリー)
‘79年、東京都生まれ。東京・築地の鮮魚市場に務める父の姿を見て育つ。大学卒業後、テレビ局ADを経て語学留学のためアルゼンチンに渡り、現地のイカ釣り漁船の会社に採用され、日本の水産会社との交渉窓口を担当。‘05年に帰国し、輸入商社を経て大手水産会社に勤務。‘21年に退職し、水産貿易商社・タンゴネロを設立。水産アナリストとして週刊誌や経済メディア、テレビなどに寄稿・コメントなども行っている。

回転寿司からサカナが消える日

“買い負け”するニッポンの食卓

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