更新日:2023年09月20日 00:18
仕事

覚せい剤を「予備校の先輩にもらった」…ヤクザから弁護士に転身した“元神童”が歩む異色の人生

「アンチのおかげ」で頑張り抜けた

 だが、世間は冷たい。元覚せい剤使用者が司法試験を目指すことをブログで発表すると、瞬く間にアンチからのコメントにさらされた。 「結構叩かれましたよ。『シャブ中毒が受かるわけない』みたいなコメントはたくさん来ました。そんななかで私が奮起するきっかけになったのは、『こいつはまたシャブをやる』という趣旨の書き込みです。覚せい剤の誘惑は容易には断ち切り難く、確かに何度も『やりたい』と思ったことはあります。けれど、それをせずに絶対頑張り抜くんだと思えたのは、アンチのおかげかもしれません

ネットの辛辣なコメントに対して思うこと

 とはいえ、過去に過ちを犯した人間が更生した際、あまりにも世間が過剰に反応する現代の風潮には、諸橋氏も疑義を呈する。 「人にたくさん迷惑をかけてきた人間が更生してある分野で成功すると、必ずそれを良しとしない人たちからのコメントに晒されますよね。『過去のことは消えない』『更生したふりをしている』『美談にするな』など、辛辣なものが多い。  ネット社会において私が問題だと思うのは、その書き込みを当人が見てしまうことですよね。まったく傷つかない人はほとんどいないと思います。本人の知らないところで悪口を言っているのとは次元が違いますから。  それから、今はくすぶっているけれども『これから頑張ろう』と思っている人がそのコメントを見たときに、『成功したとしても吊るし上げられるのではないか』と萎縮してしまう可能性もあります。  確かに私たちは多くの人に迷惑を掛けました。過去の行動を正当化なんてできません。しかし、“出る杭”を徹底して打ち、その人の人生がどんなふうになっても容赦しないネット言論のあり方は、見直していく必要があると思います」  這い上がろうとする人を過去に縛り付けたがる者たちの悪意は根深い。だが諸橋氏は、その悪意が追いつかないほど努力に徹した。「あなたも生き直せる」。相談者に向き合う弁護士の言葉として、これほどの説得力はあるまい。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
1
2
3
おすすめ記事
ハッシュタグ