更新日:2023年09月28日 15:38
スポーツ

“立浪中日”に「決定的に足りていない要素」とは。野村克也氏も語っていた意外な効用

大塚の発言で「ベンチ内が大爆笑に包まれた」

 野村がキョトンとしてベンチを見回すと、声の主は大塚だった。すると彼はこう続ける。 「チーム一の高給取りの監督が打てないんじゃ、誰が行ったって同じさ。みんな気楽に行っておいでよ。打てなくて当然、打ったら監督賞を出さなきゃ。ねえ、監督」  1人がクスッと笑ったら、ベンチ内が大爆笑に包まれた。大塚はさらに続けた。 「まだ相手だって勝ったとは思っていないさ。まだまだチャンスがやってくるぞ」  すると、終盤の2イニングで南海は連打に次ぐ連打で激しく追い上げ、最後は一打同点という場面まで相手を追いつめたという。

不安定なボールを投げていたピッチャーが…

 こんなこともあった。ある試合で同点のまま最終回に相手の攻撃となり、味方の投手がヒットと四球が絡んで無死満塁という場面となり、続く打者にもカウント3ボール0ストライクと絶体絶命のピンチに追い込まれた。「打たれてはいけない」というプレッシャーからか、ボールがストライクゾーンになかなか来ない。  そのことに気がついたのか、ベンチにいた大塚がこう叫んだ。 「おいピッチャー、何も考えずに思い切り腕を振ってど真ん中に3つストライクを投げてみろ。それで打たれたら、この場面でお前さんを使った監督が悪いんだからな」  すると両チームのベンチからドッと笑いが起きた。グラウンドにいた野村も即座に球審にタイムをとって、笑うのをこらえながらマウンドにいる投手の元へ足を運んだ。見ると投手もグラブで顔を隠して声を押し殺しながら笑っていたのがわかった。  野村は投手にこう伝えた。 「アイツ(大塚)の言う通りや。全責任はオレがとる。結果を考えずに、思い切って腕を振ることだけ考えればいい」  そう言って、再びホームベースに戻っていった。  すると、それまで不安定なボールを投げていたのがウソのように、キレのあるストレートがストライクゾーンに3球来て三振に斬って取ると、続く打者を内野ゴロの併殺打に抑えてピンチを脱した
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大塚の年棒を上げるようフロントに交渉
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スポーツジャーナリスト。高校野球やプロ野球を中心とした取材が多い。雑誌や書籍のほか、「文春オンライン」など多数のネットメディアでも執筆。著書に『コロナに翻弄された甲子園』(双葉社)
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