なぜ高校球児は“下級生をいじめる”のか「しごきを美化するOBにも問題が」名監督が実際に行った対策とは
1月18日、千葉学芸高校野球部による「下級生いじめ」の悪質な実態が『文春オンライン』で報道された。学校側が作成した調査報告書によると、2023年10月、野球部の2年生8人が1年生の部員1人の手足を押さえて裸にするなど、野球部内のいじめが常態化されたものだという衝撃的な内容も盛り込まれていた。その結果、千葉学芸は日本学生野球協会から12月15日、3ヵ月間の対外試合を禁じられる処分を受けた。
その後、いじめを行った1人は退学、2人は野球部を退部、いじめの被害を受けた生徒は24年1月に自主退学した。さらにいじめを受けた生徒は裸にされた際に動画を撮られたことに対し、12月に警察に被害届を提出。関係者に事情を聴いて捜査を進めているという。
高校野球ひいては学生スポーツの世界では、なぜこうした前時代的な不祥事が絶えないのだろうか。関東第一高等学校(以下、関東一)、日本大学第三高等学校(以下、日大三)で野球部の監督を務めた小倉全由氏に意見を聞いた。
「ただただ『ひどい』の一言に尽きますね。指導者が日頃からの選手に対する注意力が不足しているんじゃないかと感じました」
小倉が関東一、日大三で40年近くに及ぶ監督生活のなかで、選手たちに口酸っぱく言っていたのは、「上級生が下級生をいじめるのは絶対にダメだ」ということだった。
関東一の監督に就任した1981年の春、こんなことがあった。1年生部員が「昨日の練習中にボールが体に当たってしまい、そこが痛むんです」と小倉に相談してきた。直後にその部員の体を見た小倉は、ボールに当たった痛みではなく、殴られたことによる痛みであると察知した。
すぐに病院に連れていき、診察を受けると「これは誰かに殴られないとできないアザですね」と医者から明言された。小倉の予想通りだった。そこで合宿所に戻り、上級生を集めると、小倉はこう話を切り出した。
「今日、1年生部員を病院に連れていったんだが、『これは誰かに殴られたアザですね』と言われたんだ。彼に『誰に殴られたんだ?』と聞いても絶対に答えてくれない。そこでおまえらに聞きたいんだが、誰が彼を殴ったのか、この場で手を挙げてくれないか?」
その直後、数人の上級生が小さく手を挙げた。すると小倉はこう言った。
「もう上級生が下級生を殴る、いじめるっていうのはナシにしてくれ。そんな上下関係作ったところで、後々残るのは『アイツに殴られた』っていう恨みの感情しかないんだぞ」
上級生は小倉の顔を見ながら「はい」と答え、以後、関東一では上級生が下級生を殴るといった暴力行為の一切がなくなった。
「上級生に『アイツ、監督に告げ口しやがって』と下級生が思われてしまうと、その後もいじめは続いてしまいがちです。下級生を守りつつも、上級生も立てた言い方をしていく。彼らは高校生でありながら、精神年齢はまだ中学生のままだったなんてことだってあるんです。だからこそ、指導者が選手たちに対して『これはやっちゃいけないことだぞ』と口酸っぱく教えてあげないといけない。変に大人扱いする必要などないんです」
1年生の体に「殴られないとできないアザ」が…
“大人扱い”する必要はない
スポーツジャーナリスト。高校野球やプロ野球を中心とした取材が多い。雑誌や書籍のほか、「文春オンライン」など多数のネットメディアでも執筆。著書に『コロナに翻弄された甲子園』(双葉社)
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