更新日:2023年09月28日 15:38
スポーツ

“立浪中日”に「決定的に足りていない要素」とは。野村克也氏も語っていた意外な効用

大塚の年棒を上げるようフロントに交渉

 このときの状況を野村はこう振り返っていた。 「グラウンドにいる選手というのは『勝ちたい』と思うがあまり、体のどこかに力が入ってしまうものなんだよ。けれどもこのときは、大塚の一言で力みがスーッと抜けてリラックスできたんだ」  野村は「ユーモア」の効用についてこう話していた。 「タイミングよくユーモアのあるヤジを飛ばして、ベンチ内に笑いを起こしてくれる選手は、野球センスも一流のものを持っている。大事なときや緊張しているときに笑うのは不真面目とされているけれども、明るいベンチには少しくらいの失点を跳ねのけるだけの力があるものなんだ」  野村は大塚を重宝した。南海に移籍してきた72年に55試合出たのをピークに、翌年以降は20試合、44試合、24試合と出場機会を減らしていったが、フロントにベンチ内の働きを評価して年俸をアップさせるように、野村本人が自ら交渉していた。

相手ベンチが活気づいているのと「不安ばかりが先走る」

「彼のようにベンチ内で明るいムード作りをしていることを評価して、『ありがたい。よくやってくれている』と口で言うのは簡単だけども、そのことが年俸に跳ね返って来ることがわかれば、自分自身に対する評価だと自信を持てるようになる。そうすればさらに努力して、工夫するようになるだろう。  プロの選手は目を三角につり上げて戦っているだけでは、うまくいかないものなんだ。ベンチ内の雰囲気作りも大切だし、それをコーチではなく、選手自らが率先してやってくれると、戦うムードができてくるものなんだよ。  それに味方がリードしているときに、相手ベンチが自信に満ちて、活気づいているときがある。不思議なもので、そうしたときにはマスクをかぶっていても、『いつか逆転されるんじゃないか』って不安ばかりが先走って嫌な感じがしたものだったよ」  野村氏はこう話していた。
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スポーツジャーナリスト。高校野球やプロ野球を中心とした取材が多い。雑誌や書籍のほか、「文春オンライン」など多数のネットメディアでも執筆。著書に『コロナに翻弄された甲子園』(双葉社)
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