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無洗米、完成まで15年の苦労。水を使わずに米を洗う…“お尻についたガム”が難問を解くヒントに

初めての無洗米の評判やいかに

BG無洗米装置

 あらゆる壁を乗り越えてついに完成した無洗米。当初は、一般家庭向けの販売ではなく同社の地元である和歌山県の飲食店に提供した。雜賀氏によればその評判は上々だったという。 「使ってもらったお店の方から『これ、めちゃくちゃええわ!』という声をいただきました。何がいいかというと、まず、米を研ぐ人件費が必要なくなる点。さらに、人の手ではどうしても米を研ぐ技術によってムラが出ますが、この無洗米は品質が一定です。そしてなにより、美味しさが違います。手で洗うと美味しい部分まで流してしまうことがありますが、無洗米は美味しい部分は残しているので味も良いんです」  この成功を足がかりに一般向けの発売も始め、最初のうちは順調に売り上げを伸ばした。ただ、同社のビジネスモデルとして一気に全国展開はせず、着実に販路を広げていく道を選んでいたことで、ハイエナのような競争社会と資本主義が、行く手を阻むことに。 「他のメーカーが、私どもの米をヒントに無洗米を製造する機械を作って販売して、無洗米が全国のスーパーなどに出回りました。ところが、それら機械で作られた無洗米があまり美味しくなかったりムラのあるお米だったんです。それが一気に広まったことによって、一般の消費者の方の間には『無洗米は美味しくない』というイメージがついて、それにつられて、私たちの無洗米も売り上げを落としてしまったんです」

名誉回復を果たした無洗米とその功績

 二番煎じに足を引っ張られた形になった東洋ライスの無洗米。それでも堅実に、美味しい無洗米を作り着実に販売し続けた。 「無洗米全体のイメージが非常に悪かったので、私どもの無洗米を食べた人から『無洗米なのに美味しいですね』なんて言われることもありましたよ」  それでもここ数年は他社の技術向上もあって、他メーカーの無洗米も東洋ライスの無洗米に近づいてきたとのこと。それでもやはり「うちの無洗米が一番美味しいですよ」と雜賀氏は胸を張る。こうした歴史を経て、今日もスーパーに沢山の無洗米が並んでいる。ところで、雜賀氏の目的であった海洋汚染の抑止は叶ったのだろうか。 「2003年に『瀬戸内海環境保全功労者賞』として環境大臣から表彰されました。弊社以外は、すべて瀬戸内海に面する県の知事さんたちばかりで、民間企業はうちだけでした。他にも、1998年に第1回エコライフびわ湖賞や、2001年に農林水産大臣賞をいただいています」  私たちにとって手軽さが魅力の無洗米。その歴史には壮大な戦いと情熱があった。手間なく炊いた無洗米ではあっても、改めてその味わいをしっかりと噛み締めたい。 <取材・文/Mr.tsubaking>
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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