加害者は「変われないモンスター」なのか
怒りと暴力衝動を抑えられなかった主人公・エイコは徐々に自身の心の内側を見つめることができるようになる(竹書房『キレる私をやめたい』91Pより)
中川:社会的に加害者変容への信頼度が高くないのは、社会が持っているサンプルがものすごく少ないことが原因でしょう。実際、パートナーやお子さんとの関係が劇的に改善する人はたくさんいます。パートナーからお声をいただくこともあります。「加害者は変わらない」というのは事実誤認だと確信しています。
ただ、変わるのが難しい、というのはそうだと思います。変われない理由の一つは、加害の定義が昔と変わっているから。たとえば経済的DVは50年前なら「当たり前」だったので、加害者からするとある日突然、加害者にされてしまった感覚で、そうそう変わることができない。
さらに、そうした加害は基本的に被害者の声から発覚し、福祉や心理、または法の専門家などが社会問題にしていくので、加害者は最初は必ずモンスターとして扱われるんですね。加害者は変わらないし、変われたとしてもすごく確率が低いから、まずあなたの心身の安全を優先してくださいというのは援助の文脈では当然のことで、責められないです。
それに、加害者が変われると言うと、被害者は自己責任だと思ってしまう。私も悪かったのかもしれない、もっとこういうふうに関わったらあの人も変わったかもしれないのに、もっと頑張ったほうがいいかなと思ってしまう。
田房:そう、それで私も3年ほど前までは真剣に悩んでいました。「変われましたよ」っていう漫画なのに、「やらかしました」っていうところだけで猛烈に批判してくる人がいたから。なぜ一方的にこちらをモンスターのように扱って、話が通じないのかなと。
中川:ただ、加害者が増えてくると、加害者側のエピソードも出てきて、長い時間をかけて変わった人たちによって加害者変容の理論化がなされるようになる。そうなると、ようやく専門的プログラムや公的な支援が始まり、相手をモンスターだと責め続けることにあまり意味がないかもしれないという議論に移っていく。こうしたプロセスがあるのだとすると、田房さんや僕がやっている活動が一部で攻撃されるのは、「不可避」の過程なのかもしれません。こういう活動に取り組む人たち同士で、そういうしんどさを共有し合うことも大切かもしれませんね。。
田房:俯瞰してみたらプロセスとして、普通のことなんですよね。今の社会がそうだから。
被害者を支援する人は加害者を更生させられないという問題
中川:どのような社会問題でも、概ねプロセスは似てるんですよね。加害者の立場の人だって、攻撃されれば傷つくけれど、怒っている人たちに「そっちだって加害者だ」などというと泥沼化していく。そんなのは誰も望んでない。なので、僕たちみたいな立場の人間が自分の考えを発信することがすごく大事だと思っています。
田房:そうそう、あまりにもひどいのがあったら一応スクショしていますが、基本的には祈っています。何年か経って、私の漫画の内容を真に理解してくれる人が何人かいるだろうというところだけを希望に祈るしかない。それは、私が正しいと認めさせたいという次元とは違う話です。
中川:加害者変容を効果的に行うために必要なのは、「棲み分け」だと思います。
実際、DV加害者向けのプログラムはもともと、被害者支援をしていた側が主宰していることが多いんです。アルコール依存症の治療に取り組む中で、DVに気づいた人など。彼らは必ず「真のクライアントは被害者だ」という。本当のクライアントは目の前にいる加害者じゃなくて、後ろにいる被害者のことを常に考えないといけないということです。
心情的には、理解できるんです。それに、被害者支援の人が加害者を第一に考えたら、被害者支援ができなくなるんですよ。あんたはどっちの味方なんだってなる。被害者はボロボロで追い詰められているので、そういう方々を支援する上では、「あなたの味方です」というスタンスを明確にすることが大事だと思います。
少年院入所者の更生支援をしてる人も、自分がもし直接の被害者であったり、または自分の家族を傷つけられたならば加害者支援は絶対にできないと言っていました。できるわけがないですしね。
それぞれの傷つきやそれぞれの痛みをきちんと受け止めようとするときに、両方を同列で見るのは無理だと思います。専門家ですら不可能です。だから、GADHAには被害者側の方からもかなり多くの相談が来るのですが、それに応じることはできませんし、その資格もないと考えています。そのため、サイトに必ず被害者支援の団体や、ホットラインのリンクを載せているんです。
DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「
GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:
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