過ちを犯した人に更生のチャンスを与えない社会は、いずれ崩壊する!?<田房永子×えいなか>
――モラハラ、DV、不祥事などの加害者が自らの行いを反省し、償いと再出発ができる社会をつくるためには、加害者変容のための具体的な取り組みが必要である。だが一方では被害者感情への配慮の問題や、反発もあり受け入れられるのは難しい。モラハラ・DV加害者の反省と再出発を促すコミュニティ「GADHA」主宰の中川瑛氏、ベストセラー漫画『母がしんどい』『キレる私をやめたい』など自身の加害経験を描いて話題となっている田房永子氏が意見をたたかわせた。
【前回記事を読む】⇒「罪を犯した人間を償わせるには、社会から追放するしかないのか?真の贖罪とは」はこちらへ
中川:田房さんがおっしゃる、「一度何かをやらかした人間は社会に受け入れられるのか」という問題は「リエントリー」の問題として、犯罪社会学や、治療的/修復的司法などの文脈ですごく議論されていることです。
田房:私も含めて、贖罪や反省、謝罪って一体どういうことなのか、教わる機会も考えるタイミングも持たずに生きてきた人が大半だと思います。加害を更正しましょうっていう活動の中でも、自分の生い立ちなどを振り返ったりしない考え方もあります。加害行動をやめればいい、という方法。外国語でいうと、「これまでこういう発音で習ったけど、ネイティブはこうやって話してるから直しましょうね」というような。
中川:それは違和感がありますね。
田房:そういう形の反省って、加害者本人は「自分は幸せになっちゃいけない」と思い込むことが多いと感じます。一生償わなきゃいけないみたいな勢いで。私自身も昔、痴漢被害に遭ってたけど、彼らの不幸を常に願っているわけじゃない。幸せを感じないと、あれは本当に間違った酷い行為だった、自分はそれをしてしまった、ということは理解できないんじゃないかと思うんです。
中川:それには、共感する部分があります。誤解を恐れずに言うと、僕は加害者の最終的な責任は「関わる人とともに幸せになること」でもあると思っていて。それは、自分が幸せになるためには、一緒に生きる人を幸せにする必要があるからです。誰かを幸せにできるようになることが、加害者の償いとしては重要だと思います。
なので、加害者が被害者のために生きること自体が目的になってしまうのは、本当の意味での償いにはならないと思っているんです。それは結局、他人のために生きることだからです。それは自分を道具にすることであり、これまでやってきたことをひっくり返しているだけです。相手のために、と卑屈になる程被害者意識を持つ人も少なくありません。だから、関わる人と共に、幸せになることが大事なんです。
田房:でも、そうなると被害者に再び苦しみを強要する恐れもありますよね。加害者ケアについては、「被害者のケアもできてないのに何事か」と、アレルギーを持たれている時期があった。加害者向けのプログラムにおいて、加害者が自分の過去の傷つきを認めるということに拒絶反応が起こるのは、おそらく被害者と加害者がすごく近くにいるからなんですよね。本人達が近くにいるというより、周りが両者を近くに置いている感じ。
だから「加害者にも事情があったんだから許しなさい」と言われてるような感覚を被害者はどうしてもおぼえてしまうわけです。最近は、加害者変容について知られてきたので反発は少なくなりましたが。
中川:もちろん犯した罪の重さにもよりますが、僕は加害者批判が極限まで行くと、「何かをやらかした奴は殺す」という社会にしかならないと思うんですよね。人はみな、誰もが様々なものを抱えていて、問題を起こしてしまうことはある。そこで学び直せない、変われない、許されないのであれば殺すしかないという結論になり、普通に社会が崩壊すると思います。田房さんに攻撃的な文言を送る人も、その観点から見ると加害と言えますね。
田房:確かに、ある意味ではそう言えるかもしれません。そういう人にこそ、『キレる私をやめたい』を読んでほしいです。
痴漢の矯正プログラムでおぼえた違和感。加害者も過去に傷を抱えている
加害者批判だけでは社会が良い方向に変わらない
DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:えいなか
記事一覧へ
『孤独になることば、人と生きることば』 モラハラ、パワハラ、DV 人間関係は“ことば”で決まる |
記事一覧へ
『孤独になることば、人と生きることば』 人間関係を改善する鍵は、言語化にあった |
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ