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親を”毒親化”させる社会システムの存在。そして「負の連鎖」が新たな加害者を生み出す<田房永子×えいなか>

親の心の傷を癒す義務は、親自身にある

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主人公・エイコは自身の怒りの根源が母親との関係にあったことに気づく(竹書房『キレる私をやめたい』72Pより)

中川:変ではないと思いますよ。僕も親と断絶していて、正直かなり憎んでいるのですが、同時に思っていることがあるんです。それは「お前はお前で、ちゃんとサポートを受けろよ」ということ。  親の生育歴を振り返ってみれば、ああ、いろいろあったんだなあと思います。祖父母の代から連鎖しているものが明らかにありますから。その前には戦争もあります。  だから、恨む一方でこの人達も辛かったんだろうなと思っている。ただ、それをケアする役割は絶対に持たないと決めています。子供にわかってもらおうとするなよと思う。  GADHAでも子育てをしている人が、よく「もう加害しないようになりたい」などと言うんですが、親である以上、必ず何らかの形で子供に加害します。だから、加害してしまった後に学び直すことと、そのモチベーションが沸くよう応援し合える仲間がいることが大事だと思うんです。

子育て中の親のケアは国家や自治体が率先して担うべき

田房:私の子供は5歳差の2人きょうだいなのですが、2歳や3歳って本能的にもう吸いつけられるような可愛さなんですよ。そのとき、上の子は7歳か8歳で、下の子に親が夢中になっているということだけで傷ついたと思うんです。でも、それってもうどうにもならないじゃないですか。「傷ついたでしょ、ごめんね」なんて言えないし、言うのも何かおかしいから。 今は子ども達が大きくなって関係性も変わってきたので、その点において私自身のうしろめたい気持ちはなくなりました。だけどそういう根源的な傷つきは、ってどうしてもあると思う。大きく言っちゃうと、人類の長い歴史の中でずっとあることだと思うんです。そういう人々の傷つきって社会的な問題視はされず、各家庭のフォローにまかされてる。でも親はそこまで手が回らない。本当は社会全体で真剣に対策するのがいいんじゃないかと思うんですよね。 中川:大事なことですね。子供を産むことによって利益や持続可能性を得る共同体は、ケアの責任と義務を負っていると思います。  さらに突き詰めていくと、「命を生み出している」ことも僕は根本的には加害だと思っていますからね。子供を産み育てるというのは、親のニーズを満たす、他者を巻き込んだセルフケアだと思います。ニーズが満たされない存在をこの世界に生むというのは、もはや潜在的な加害をしているのと同じです。だから親には、子供に対するケアの責任があるのですが、親も完璧ではないので、よかれと思って傷つけちゃうこともあるし、うまくいかないと爆発してしまうこともある。  だから、国家や社会は子育てする親をもっと支援するべきだと思います。安易に親個人の責任にしても、問題は解決されません。 田房:特に虐待の連鎖で育った親なら、なおさら個人レベルでケアなどできるわけないんですよね。
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社会システムが親の「凶暴性」を増幅させている側面もある
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DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:えいなか

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人間関係は“ことば”で決まる


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