親を”毒親化”させる社会システムの存在。そして「負の連鎖」が新たな加害者を生み出す<田房永子×えいなか>
――加害者変容には、加害者が自身の過去の傷つき体験と向き合うことが不可欠であると語られた前回。そこで、切っても切れないのが「親との関係」であるという。加害者を生み出す根本的な構造に関わる問題について、モラハラ・DV加害者の反省と再出発を促すコミュニティ「GADHA」主宰の中川瑛氏、ベストセラー漫画『母がしんどい』『キレる私をやめたい』などで話題の田房永子氏が意見をたたかわせた。
【前回記事を読む】⇒「過ちを犯した人に更生のチャンスを与えない社会は、いずれ崩壊する!?」はこちらへ
中川:加害者変容を行なっていく中では、いくつか典型的な心の動きが表れるのですが、そのうちの一つが、「親から傷つけられたことを認める」というものです。
結果、パートナーシップ改善のために来たはずなのに、親との関係が変わったり距離を置くようになる。親が亡くなっている場合は、親の見方が変わる。それに伴って、子供との関係をとらえ直すことになるんです。自分が親と同じことを子供にもやっていることに気づくので。
親は自分にとって完璧な存在であり、育ててもらった恩があるから、悪く言ってはいけないという思い込みがあるので、加害されていなかった、傷つかなかったことにしなきゃいけないんですよね。だから、今自分がやっている加害のこともぼかしちゃうんですよ。
そのときに僕は、このように言うんです。
「良いことのように聞こえますけど、それをひっくり返してみていただけますか。つまり、『俺が養ってる人間は、俺に文句を言うな』ということです。それがまさに加害の典型ですね」と。
そして、自身の親からされたことを書いてきてくださいと伝えると、そんな小さなことまで覚えていたのか、というほど細かい被害の記憶が出てくるんですよ。
田房:親にされたことって、今の自分が親として子供にやってしまうことなんですよね。だから、『孤独になることば』を読んでいて、耳が痛い部分がたくさんありました。悪気のあるなしのレベルではなく、大人と子供って、いる次元が違うのでどうしても嚙み合わない場面が出てきてしまう。
中川:たとえば、正月に親から一品物の凧を買ってもらった記憶を挙げた人がいました。
すごく嬉しかったのですが、父親が「俺が手本を見せてやるよ」などといって川沿いで勝手に飛ばし始めた。凧が落ちたり傷つくのが怖かったので、やめてほしいと言ったのに、父親は構わず「こうやって飛ばすんだ」などといって勝手に遊んだ末、案の定川に落としてしまった。墨で描かれた絵が濡れて、ぐちゃぐちゃになった凧を見て、悲しくて泣いていたら、次は母親が「おっと、今年の初泣きだね」などと茶化した。
父親には「新しく買ってやるからいいだろう」と言われ、次の日に買ってきてもらったら別のものだったので、「それじゃない」と言って泣くと、「買ってやったのに何なんだ」と怒鳴られた……そういう記憶がずっと積み重なって残っていたようなのです。
田房:親と子のすれ違いがとても分かりやすいお話ですね。大人は、事態を無理やりまとめようとするんですよね。大人は進んでいく時間の中で、やるべきことをしなければならないという感覚がありますから。一方、子供はその瞬間瞬間を楽しんで味わいたい欲求が強くある。そこが大きな差ですよね。
お父さんは「凧をあげる」というレクリエーションを完遂しなきゃいけないし、お母さんの「初泣きだね」も、正月だから間違ってない。だけど子どもにとっては「凧」に視点が合ってるから本当に悲しい。だけど誰も分かってくれない。
それがつらいっていうのはすごく分かるんです。でも自分が親の立場だと、凧の夫婦側の言動をしてしまう気がします。凧があがるのを見せてあげなきゃ! みたいな。
だから私も、『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)という作品を出したときに、自分の首を絞めることになるだろうなと思いました。凧の夫婦のようなことは自分もおそらく、子供に対してやっているし、親や子供が読んだらどうなるんだろうという心配もあった。でもやっぱり娘としての自分の気持ちを書いた本は、親になったら絶対出版できないと思ったので、思い切って出しました。
そして同時に思ったのは、自分の子供には、別のところでケアをしてもらいたいということ。変な言い方だけど、私からされたことを、ちゃんとケアできる世の中になってほしいと。
親から傷つけられた経験が、のちに新たな加害をつくる
親が子供に行う無自覚な加害
DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:えいなか
記事一覧へ
『孤独になることば、人と生きることば』 モラハラ、パワハラ、DV 人間関係は“ことば”で決まる |
記事一覧へ
『孤独になることば、人と生きることば』 人間関係を改善する鍵は、言語化にあった |
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ