仕事

新人社員の保険勧誘が“クレームの嵐”に。上司が「全て私の責任です」と決意するまで

一気に増え始めた契約とクレーム

 その日以降、望月さんの営業所の契約件数は徐々に伸び始めたといいます。ところが、F君の快進撃が始まって1か月が経とうとした頃、営業所に彼宛の電話が増え始めたそうです。 「ほとんどが女性からの電話で、しかも、ほとんどがF君の顧客だったんです。そして、その内容がほぼ『なんか話と違う』『支払額が思っていたより多い』などだったんです。とりあえず、私は個々のお客さんからF君に代わって状況を詳しく聞き取るのが精一杯でした」  なかには、営業所を通り越して本部にクレームの電話を入れた契約者もいたそうで、本部の統括部長から望月さん宛に事情を求める連絡も入ったとのことです。 「なんか、昨日までの営業所内が嘘のように、その日は殺伐としていましたね。1日でここまで雰囲気が変わるなんて想定もしていませんでした。こんな時に限ってF君の携帯電話は朝からずっと不通で、生きた心地がしなかったのを覚えています」

クレームを引き起こした営業手法

自動車 クレームの電話が鳴り止まない中、その日の午後7時頃にようやくF君から電話が入ったといいます。望月さんは、高揚した気持ちを抑えつつ冷静にヒアリングします。 「彼の説明によると、毎日自動車教習所に通い、免許に合格した若い女性をターゲットにして言葉巧みに自動車保険の勧誘を行っていたそうなんです。確かに、大学時代はアメフト選手で、身長も高くかなりのイケメンなF君に声をかけられたら、ようやく試験に合格し晴れ晴れした気持ちも相まってF君の話を聞くでしょうね」  F君はその後、女性たちにお茶をごちそうしたり、反応が良い女性に対しては食事という名目で保険の勧誘を行っていたそうです。 「営業経費がかさんでいた理由もやっと分かりました。ノリの良い女性とは少しお酒の力も加えて、オプションの保険などもセットで契約を依頼していたようです。F君も用意は周到だったようで、常にターゲットの名字と同じ認印を事前に購入していたのは驚きでした。一応契約はそれでも成立しますからね」
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代償は小さくなかった
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愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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