『孤独のグルメ』原作者・久住昌之がソウルの路地裏でひとりめし!
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日本から一番近い外国、韓国。飛行機に2~3時間も乗れば、韓流ドラマのロケ地巡礼やプチプラコスメのショッピングが楽しめるとあり、女性人気が高いイメージがある。しかし、首都ソウルの路地裏は中年男性の胃袋を鷲づかみにする食堂が数多点在する「ひとりめし天国」でもある。
エネルギッシュな韓国の人々はよく食べ、よく飲む。そんな彼らの胃袋を癒し続けて50年以上の食堂があると聞き、まずはソウルきっての繁華街・明洞(ミョンドン)から程近い茶洞(ダドン)を訪れた。
朝7時のオープンから行列ができる『武橋洞(ムギョドン)プゴグッチッ』の創業は1968年。メニューは干しだらのスープのみで、店名の「プゴグッ」は干しスケトウダラのこと。
「お客さんがみんな朝から元気に食べていて、店の雰囲気がいいですね。今から飲む干しだらのスープは二日酔いに効くと聞いたので、この取材のために、昨夜はがんばってたくさんお酒を飲みました(笑)」
しばらくすると、白濁したスープとごはんが用意された。牛骨スープと干しスケトウダラを12時間煮出したスープはすっきりした旨味があり、中には鱈の切り身や卵、葱や豆腐が入っている。塩味が欲しければ、旨味と塩味が凝縮されたアミエビの塩辛を少しずつ足し、自分好みに味を調整することもできる。
「うん、美味しい。自分で味の調節ができるのもいいですね。普段は、朝はパンを食べることが多いんだけど、二日酔いじゃなくてもこのスープだったら毎朝食べてもいいなあ。しっかり酸味のあるキムチも美味しい。白菜の味が違う。もう、これだけでごはんがいけちゃう。
韓国料理はどの店でも副菜がたくさんついてくるのが楽しいですよね。それも野菜系が多いのがボクはうれしい。韓国の人ってたくさん食べるのに、太っている人をあまり見かけないのは、主食とともに野菜をたくさん摂っているからかもしれませんね」
『武橋洞プゴグッチッ』では、通常の白菜キムチやニラのキムチに加え、少し甘みのある胡瓜のキムチがあらかじめテーブルにセットされている。韓国の食堂の多くは、これら「パンチャン」と呼ばれる無料で食べ放題の副菜を用意してくれているのだ。
最後の一滴までスープを飲み干した久住氏は、「いやー、やさしい味で五臓六腑にしみわたるようでした。朝のからだに最高です。これで、また夜も酒が飲める」と笑った。
朝食後、北村韓屋村(プクチョンハノクマウル)を歩いた。朝鮮時代は高級住宅地だったというこのエリアは、急な坂道と細い路地が入り組んだなかに約600年の歴史を持つ昔ながらの伝統的な家屋、韓屋(ハノク)が密集している。京都の町家のように改装してゲストハウスにしている韓屋もあれば、普通に人が住んでいる韓屋もある。
坂道を登りきると、ソウルの街並みを一望することができた。
「韓屋が並ぶ風情ある街並みの先に近代的なビルが立ち並んでいて、古いものと新しいものが共存してるんですね。ボクは日本でも外国でも、そういう場所に親しみを覚えます」
腹ごなしも済んだところで、通仁市場(トンインシジャン)へ向かった。規模はそれほど大きくないが、地元の方が普段着で訪れる市場で、生鮮や精肉、鮮魚、乾物などを売る店が多く、食材を見るだけでも楽しい。
「日本のキムチと、韓国で食べるキムチは白菜が違うとは知っていたけど、見た目に全然違いますね。ほら、日本のものより色が濃い。葉が一枚一枚細いのもある」
店先に並べられた異国の食材を見ながら市場をブラブラ歩くのは、現地の人々の日常に溶け込んだような楽しさがある。
しばらく歩いていると、弁当の容器を持って歩いている若者が多いことに気が付いた。通仁市場では、2階にある顧客センターで葉銭(ヨプチョン)と呼ばれる古銭風のコインを購入すると弁当容器がひとつ貰える。市場内の加盟店で気になった食べ物を銅銭で購入してその容器に入れ、出来あがった自分好みの弁当をカフェで食べることができるのだ。
次に目に入ったのは韓国の伝統菓子を売る店。ここで、揚げたお菓子をひとつ摘まむ久住氏。
「見た目ほど甘くない。日本でも子供のころに食べたような、素朴で懐かしい味ですね。ボク、甘いものはほとんど食べないですが、これはあとを引く軽さ。好きです」
食べたのは、オランダという昔から韓国の人に親しまれている伝統菓子で、小麦粉でつくられた生地を油で揚げた後に水飴を絡めたもの。一見すると雷おこしのようだが、見た目より軽やかな後味だ。
しばし歩くと、今度は青果店が目に留まった。店先に置かれた段ボールには、縦縞模様が入った黄色い果物が入っている。
「これは何だろう? 初めて見る」
ひとつ買ってみると、お店の方がナイフを貸してくださった。
「ん、これは野菜? 果物? メロンみたいなウリみたいな、味と歯応え……昔新潟の田舎で食べたような」
これは「チャメ」と呼ばれる果物で、日本でいうマクワウリのこと。皮は薄くて剥きやすく、小さくて柔らかい種ごと食べることができる。韓国では夏に、スイカに並んでよく食べられるのだという。
「そこに置いてあるのは桃かな? 日本の桃より色が濃くて、すももを少し大きくした感じですね。香りがいい。同じ名前の果物でも日本とは見た目や味が少し違うのもおもしろい。まだまだ知らない果物もたくさんあるんですね」
この日は朝からあいにくの雨模様。雨がしとしと降り続いていたが、「雨の日に歩くのも気持ちがいいですよね。雨に濡れた舗道は風情がある」と、久住氏は旅先での雨をむしろ楽しんでいるようだ。
十分歩いたところで、西村(ソチョン)にあるセジョンマウル飲食文化通りを訪れた。この辺りは旧・大統領府がすぐ近くにあることから開発禁止区域に指定されており、下町情緒と雑多な雰囲気が残っている。
ここで新鮮な海産物が売りの専門店『西村ケダンチッ』に入った。その日の仕入れによって店長おすすめのメニューが変わるという。
1階のキッチンを横切って2階にあがると、海の家のような空間が広がっており、壁の簾の隙間に客が飲んだ後のチャミスルのキャップが無数にひっかけられている。
「こういう雑然としていてものが少なく、調度品が安っぽく、でも酔客たちの楽しい気配が濃密に残っている酒場、大好き。しかも昼間で、外は雨、サイコーじゃないですか!」
一目でこの空間を気に入った久住さん。窓際の席に腰かけ外をのぞくと、多くの飲食店がひしめきあい、その瓦屋根がしっとり濡れている。
「まずは冷たいビールをいただこうかな。雨を見て、飲もう(笑)。夜になったら、窓の下に見える横丁の行灯に明かりが灯って、またいい雰囲気になるんでしょうね」
飲んでいると、恰幅のいいご主人が次々に海産物を運んできてくれた。器の底に美味しそうなスープがたっぷり流れ出たムール貝の酒蒸し、サンナクチ(生ダコの踊り食い)、海老の刺身……。タコはぶつ切りになった状態でもゆっくりクネクネと動き、海老の触覚も時折、思い出したように動く。
「どれもこれもすっごく新鮮なのが、ボクの目にもわかる。ムール貝も、全っ然臭みがない。日本でもヒドイのありますから。ゆで汁に流れ出たエキスが抜群に旨い。生タコはまだ足が動いているのがコワイ。止まってからでもいいのに(笑)。青唐辛子と生のにんにくと一緒に食べるのがいい。匂いと辛さのWパンチに注意して。泣くから(笑)」
次に登場したのはホヤ。日本だと殻を剥き、食べやすいよう一口大にカットする。しかし、『西村ケダンチッ』では、殻に入ったまま縦に真っ二つに切ったホヤをスプーンですくって食べるのだ。その際、コチュジャンを少し入れるのが店主推奨の食べ方だ。
「ホヤは大好きです。でもこんな食べ方は初めて。スプーンで、殻から、身もに内蔵も一度に掬い取って食べるなんて!(口にして)うわ、ウマイ! どうして? 日本ではホヤが苦手な人が多いけど、このホヤならイケるかも。ホヤ好きな人であれば、たまらないと思う。てか、あの匂いがしなすぎて、ちょっと物足りないかも。けど、旨いな。いくつでも食べられる。もはや珍味とは言えない(笑)。日本に帰ってまたこのホヤを食べたくなったらどうしよう?(笑)」
ホヤの殻に焼酎を入れて飲むのもオススメだという。ホヤのミネラル感とすっきりした焼酎が溶け合い、滅法旨い。
杯がすすんだところで、オーナーのご好意で締めの海鮮ラーメンを出していただいた。殻付きの帆立をはじめ、これでもかというほどの海鮮が丼に盛りつけられている。
「わ、具材が多すぎて麺が見えない! (その具をそっちのけで麺を引き摺り出し)あ、これはインスタントの辛ラーメンかな? ボク、韓国の辛ラーメン、大好きなんですよ。え、違う? でもその系統。ウンマイ! やっぱりラーメンとカレーはいつでも食べたい」
海鮮のエキスが溶けだした辛いスープがジャンクなちぢれ麺によく絡む。最高の締め麺をいただきつつ、ここでもパンチャン(無料のおかず)の玉葱をつまむ。
「海鮮も違うけど、この玉葱も日本のとは違う甘みがあって本当に美味しい。韓国の野菜は、日本の野菜と味も形も少しずつ違って奥が深いよね。今度はもっと韓国の野菜を食べてみたいな。日本でも外国でもご馳走というと肉と魚がドーンだけど、野菜あっての肉魚だと思うんですよね、本来。韓国とか台湾はそれが日常的に徹底している気がします。日本もマネしてほしいです」
市場散策などを挟みつつ、本場のおいしい海の幸を味わった今回の韓国ひとりメシ旅。
韓国と言えばサムギョプサルをはじめ、まず焼肉を思い浮かべる人も多いだろうが、さすが海に囲まれた半島の国。海産物天国でもあるのだ。
そして何より、最新のビル群と昔ながらの街並みが共存するソウルの路地裏や市場は、懐かしく、パワフルで、男性のひとり旅にもぴったりの場所。コロナ禍を経てようやく海外への渡航が自由にできるようになってきた今、久しぶりの海外旅行先としてぜひソウルの路地裏に足を運んでみてほしい。
【登場したお店とスポット】
●武橋洞プゴグッチッ
住所:ソウル特別市 中区 茶洞 173
電話番号:02-777-3891
営業時間:月~金7:00~20:00、土・日7:00~15:00
定休日:旧正月・秋夕(韓国のお盆)の連休、夏季休業
●北村韓屋村
住所:ソウル特別市 鐘路区 キェドンギル一帯
●通仁市場
住所:ソウル特別市 鐘路区 通仁洞 44 通仁市場
電話番号:02-722-0911
営業時間:7:00~21:00 店舗により異なります
定休日:第3日曜日
●西村ケダンチッ
住所:ソウル市 鐘路区内資洞
営業時間:13:00~23:00
定休日:不定休
久住昌之氏のソウルひとりめし、動画版はコチラからご覧ください!
<提供/韓国観光公社> 取材・文/山脇麻生 撮影/加藤 岳
もともと韓国では、「食事は誰かと一緒に」が基本スタイルだったが、『孤独のグルメ』人気でドラマが何度も再放送されるうち、ひとりめしを楽しむ人口が増えたのだという。そこで今回は原作者の久住昌之氏と共に、ひとりめしにぴったりな名店を巡った。
二日酔いの胃袋を癒す、干しダラと牛骨のスープ
無料の副菜「パンチャン」が大好き
朝鮮時代の高級住宅地・北村韓屋村(プクチョンハノクマウル)
日本でも子供のころ食べたような小麦粉のお菓子
ノスタルジックな気分に浸れる韓国フルーツ「チャメ」
旅先の雨はうれしい誤算
ホヤを器に焼酎を一杯。締めは具沢山の海鮮ラーメン!
<提供/韓国観光公社> 取材・文/山脇麻生 撮影/加藤 岳
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