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リストカットは「死ぬためではなく生きるため」。700件以上の“傷跡治療”を行った医師の真意

リスカの跡の治療は病院に行っても拒否される?

きずときずあと

リストカットの傷跡のある皮膚を薄く剥がして真皮層を平らに整えた後に、元の方向から90度回転させて戻す(画像提供:きずときずあとのクリニック)

――それまでに戻し植皮という治療法が注目されてこなかったのは、なぜでしょうか。 村松:形成外科医が開業する場合、「形成外科」の認知度が低いので、ほとんど皮膚科か美容外科として始めます。なので、傷跡を担当する形成外科医の多くは病院などで働く勤務医です。勤務医は、基本的に保険診療内の治療しか行いません。しかし、リストカットのような成熟瘢痕(傷が治ってから長い時間が経過した傷跡)に対する治療は保険外診療(自由診療)です。そのため、リストカットの傷跡を治療したくて病院に行っても拒否される場合がほとんど。  このような背景から、そもそもリストカットの傷跡を治したい患者さんが行ける病院が非常に限られており、戻し植皮がリストカットの傷跡の治療に効果的であることも知られていなかったのです。 ――戻し植皮とは、どのような治療ですか。 村松:リストカットの傷跡のある皮膚を薄く剥がして真皮層を平らに整えた後に、元の方向から90度回転させて戻す手術です。戻し植皮には3つの利点があります。1つは、同じ場所の皮膚を使うので違和感が出ないこと。他の身体の皮膚を剥がして植皮する治療法もありますが、他の体の皮膚を付けると色が違うので、パッチワークのようになり目立ってしまいます。  2つ目は平らになること。リストカットの傷跡は隠そうと思ってファンデーションをつけても、凸凹が出て隠しきれないんです。3つ目は、リストカット特有の横の傷跡がなくなり、うっすら縦筋が残る程度なので、リストカットの傷跡だと気づかれにくくなることです。

リストカットと気づかれないために

きずときずあと

リストカットの傷跡を全く違う傷跡に見せて気づかれないようにする(画像提供:きずときずあとのクリニック)

――戻し植皮では、ぴったり90度に回転して戻されるのでしょうか。 村松:必ずしも90度とは限りません。リストカットの傷跡によってどのように植皮するかを判断します。一般的に横向きに腕を切る方が多いですが、稀に縦向きに切っている方もいらっしゃいます。そのような場合は、バラバラに皮膚を薄く剥がして、組み合わせて植皮しています。戻し植皮の目的は、リストカットの傷跡を全く違う傷跡に見せて気づかれないようにすることなので。 ――戻し植皮は保険診療外とのことですが、どのくらいの費用がかかりますか。 村松:リストカットの傷跡の大きさにもよりますが、平均で70万円ぐらいです。
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偏見がなくなれば傷跡で悩むこともなくなる
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大阪府出身。外資系金融機関で広報業務に従事した後に、フリーのライター・編集者として独立。マネー分野を得意としながらも、ライフやエンタメなど幅広く執筆中。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter):@COstyle

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