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リストカットは「死ぬためではなく生きるため」。700件以上の“傷跡治療”を行った医師の真意

偏見がなくなれば傷跡で悩むこともなくなる

きずときずあと

リストカット症例の写真(画像提供:きずときずあとのクリニック)

――日本自傷リストカット支援協会の代表理事を務めています。自傷行為に対する啓蒙活動をする理由を教えてください。 村松:リストカットの傷跡の治療に来られる患者さんのお話を聞くようになり、リストカットに対する社会の偏見を知り、彼ら(彼女ら)のために何かできないかと考えるようになりました。世間ではリストカットについて知られていないがゆえに「おかしな人」「変な人」だというレッテルを貼られてしまっている。しかし、実際の調査では「中高生のおよそ1割から2割に自傷行為の経験が少なくとも1回はある」ことがわかっています。決して特別視されるようなことではないのです。  当院には、つらい環境下でリストカットを行い、その状況を乗り越え、傷跡の治療まで経験した患者が多くいらっしゃいます。その一連の経験を経た方々だからこそ、今まさにリストカットを行なっている人たちの役に立てることがある。その接点を作りたいと思って、日本自傷リストカット支援協会を立ち上げました。つらい時に、「私も同じ状況で大変だったけど、大丈夫だよ」と声をかけてくれる存在って大事なんですね。  程度は違うかもしれませんが私自身も大きな借金を背負ってクリニックを開業した当初、なかなか経営がうまくいかず精神的にも肉体的にも非常に落ち込んだ時期がありました。そんな時に一番励みになったのは、つらい時期を乗り越えて成功している開業医の先生たちから「僕たちも同じような時期があったよ」という言葉をかけてもらったことです。同じ経験をした人だからこそ、同じ目線で寄り添った手助けができる。そのような思いで、自傷行為を経験した方々の声を聞きながら、私たちができることを進めています。  将来的には協会の取り組みを通じて、リストカットに対する社会の偏見をなくしていきたいと考えています。偏見がなくなれば、リストカットの傷跡で悩むこともなくなるし、手術する必要もなくなる。そのような社会が作られることがベストではないでしょうか。

全国の患者のニーズに応える

きずときずあと

リストカット症例の写真(画像提供:きずときずあとのクリニック)

――YouTube「きずときずあとのクリニック」で積極的に発信されている理由を教えてください。 村松:全国的に形成外科のクリニックが少ないこともあり、遠方からお越しになる患者もいますが、適切な情報を得ることで、交通費を使って来ていただかなくても解決できることがあります。なので、YouTubeなどで積極的に情報を発信しています。  コロナ禍の影響で、オンライン診療も増えましたし、LINEでの無料カウンセリングも始めました。傷跡の写真をお送りいただき、アドバイスすることで受診していただく必要がない場合もあります。できるだけ多くの患者さんのニーズにお応えするために、さまざまなツールを活用している状況です。 ――銀座に2院目をオープンされましたね。銀座という場所を選ばれたのは、なぜでしょうか。 村松:銀座を選んだ理由は、当院(豊洲院)からのアクセスも便利で行き来しやすく、落ち着いた環境だからです。当院は、緊急を要する患者も受け入れているので、江東区内の皮膚科や整形外科のクリニックから怪我した子どもたちが送られてくるため、待合室も混み合ってしまうんです。一方でデリケートな悩みを抱えた女性たちが同じ待合室で診察を待っていただいている状況が申し訳ないなと思い、患者さんのご事情や治療内容に応じてプライベートな空間を利用いただける銀座院をオープンしました。豊洲院と銀座院とでは、雰囲気もだいぶ異なりますが、両院での治療を通じて、今後も幅広い世代の患者さんの傷や傷跡のケアに努めていきたいと思います。 <取材・文/秋山志緒> 【村松英之】 昭和大学病院や前橋赤十字病院などで形成外科診療に従事した後、2017年に傷や傷痕の治療に特化した「きずときずあとのクリニック豊洲院」を開業。きず、傷跡、やけどなどの傷跡・瘢痕治療・リストカット跡の修正治療などを強みとする同院に全国から患者が訪れている。2023年には2院目となる銀座院をオープン。一般社団法人日本自傷リストカット支援協会の代表理事。形成外科医としてパレスチナやアジアの国々でボランティア活動も行なっている
大阪府出身。外資系金融機関で広報業務に従事した後に、フリーのライター・編集者として独立。マネー分野を得意としながらも、ライフやエンタメなど幅広く執筆中。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter):@COstyle
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