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65歳で貯金ゼロ…作家・中村うさぎが直面する老後の不安「生きるためには働くしかない」

風俗の仕事を「やってよかった」と思う理由

中村うさぎ

中村うさぎ著書『あとは死ぬだけ』(太田出版)

――著書『あとは死ぬだけ』(太田出版)の中で、47歳の時に風俗の体験取材をされたことが書かれています。実際に体験してご自身の中で変化したことはありますか。 中村:仕事をやる前は、知らない男に対して口でのサービスなどできるのかなと心配でした。でも、やってみたら別にどうってことなかった。仕事だと思えば、心の負担もなく割り切ってできましたね。  風俗の仕事を通じて明らかになったのは、私が今までどれだけ男に対して嫌悪感や恐怖感を抱いていたかということ。現場では、密室で初対面の男と裸になって向き合うわけじゃないですか。だから、どんなお客さんが来るのか怖い。でも、風俗に行き慣れている人は別としてお客さんも緊張していることがわかったんですね。  それまでは、男の性的衝動の強さや暴力性が怖かったのですが、男も知らない女に対して恐怖感があるんだなと気づいて、男というものと仲直りした感じがしました。だから、私にとって脳内の男性像を書き換えるきっかけとなり、やってよかったと思います。

死に損なったのは、罰に違いない

中村うさぎ

著書『他者という病』(新潮社)

――著書『他者という病』(新潮社)の中では「私の死の体験は、いきなり『プツン』と電源が切れて真っ暗闇になる、という何とも呆気ないものだった」と書かれています。死の体験から生きることに対する捉え方は変わりましたか。 中村:うつ状態だった期間、ずっと「なんで、あの時死ねなかったんだろう」と悔しくてしょうがなかったです。スイッチを切るようにプツンと死ねるなんて、望んでもできないような死に方じゃないですか。今度は、痛い思いをしたり、のたうち回って死ぬかもしれない。それを考えると嫌になっちゃって。  あの時、病院にいたから蘇生処置が施され、息を吹き返して夫は喜んでくれたけど、私は「病院ではなく家にいたら死ねたのに」と思いました。息を吹き返したことは、神様が私に与えた罰に違いない。そう思って、生き続けることは私にとって罰でしかなかったんです。生きていてもどうせ死ぬんだから……と思って、全くやる気が出なかった。その後、10年が経ち、ようやく「生き残った以上、生き続けるしかないし、生きるためには働くしかない」という覚悟がついた気がします。  とはいえ、相変わらず「あの時、死んでいればよかった」と思うこともあります。歳を取ると体力もなくなるし、あらゆる機能が劣化していくのが自分でわかる。昨日できたことが、今日やりにくくなっていると感じることがあるんです。そのなかで一番怖いのは、脳の劣化です。私の父親が現在90歳ですが、会話が成り立たないぐらい単語が出てこない。そんな父親の様子を見ていると、自分もその状況に近づいているんだなと暗澹たる思いに駆られます。
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大阪府出身。外資系金融機関で広報業務に従事した後に、フリーのライター・編集者として独立。マネー分野を得意としながらも、ライフやエンタメなど幅広く執筆中。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter):@COstyle

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