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「障害者が堂々としてんじゃねぇぞ」と怒鳴られたことも…“死にきれなかった”女性が車椅子生活でたどり着いた境地

車椅子生活になってたどり着いた境地

曽塚レナ氏 車椅子生活になり、心境が変化すれば、行動も変わる。健常者だったときには口にしなかった「シンガーソングライターになりたい」という夢を語ったのもこの時期だ。 「私はこれまで、障害を負うと人生は苦難に満ちているものだとばかり思っていました。しかし、それは間違いでした。入院中にTwitter(当時)に呟いたことがきっかけで、いろいろなイベントに呼ばれるようになり、多くの友人に恵まれました。ありがたいことに、私に興味を持ってくれる人も徐々に増えました。知らない世界に触れることができたのも、車椅子生活がきっかけです。健常者だったころは『レールから外れたら、何か怖いことが待っている』と怯えていて、夢を見てはいけないと思って生きていました。しかし車椅子生活になったことで、『とことん生きてやろう』と不思議と思えるようになりました」  活動領域を広げていく自分について、曽塚氏はこんな独特な分析をしている。 「たとえ痛くて少ししか動かない部位でも、リハビリで動かしていかなければなりません。人の身体は動かさないと動かなくなるからです。それと同じで、人生も『できるわけない』と諦めて行動しなかったら、その回路はいつまで経っても繋がらない。運命も自力で変えられないと思うんです。だから私は、これまでただ憧れて心に秘めていた“夢”を語ることにしました

“可哀想な人”にも届く楽曲を…

 これまでの楽曲は個人の内面を表現した作品が多かったが、今後は「多くの人に共感してもらえる曲作りも考えている」と曽塚氏は話す。「多くの人」のなかには、冒頭に紹介したような、障害者を見下し攻撃してくる人も含まれる。 「私自身が身をもって体験したことだからわかるのですが、人は『理解者がいない』と思うと世界を恨みます。その矛先が、明らかに自分よりも弱者に向かうタイプの人もいるでしょう。しかし本来は、人を攻撃しなければいられない人こそ可哀想な人ですよね。  世界の原則が弱肉強食だったとしても、思いやりのない強者は“メンタル貧者”だと思っているので。そんな人間にはたとえ車椅子でも負けないし、いつかそういう人たちにも届く楽曲が作れれば、と思っています」  無意識に敷いたレールを飛び出せず、気持ちを分かり合えない“敵”の幻影に翻弄された青春時代。自らの存在を消そうと試みるも、皮肉にも身動きさえとれない障害を抱え、しかしその奈落で人の愛情に触れた。シンガーソングライター・曽塚氏はすべての過去を五線譜に描き起こし、孤独に膝を抱える人たちのための旋律を奏でる。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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