更新日:2024年02月14日 16:24
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なぜ渋谷の「スクランブル交差点」に人が集まる理由。ヒントは“特殊な地形”

スクランブル交差点に若者たちが集うのは…

ご存知の通り、渋谷の中心にあるスクランブル交差点はその四方を道玄坂、宮益坂、公園通りの3つの「坂」にはさまれている。渋谷は街全体として「お椀型」になっていて、ちょうどそのお椀の底がスクランブル交差点になっているわけだ。お椀の底には人々が滞留し、集まりやすくなる。 単純なことかもしれないが、この「スクランブル交差点が底にある」という地形的な特徴こそが、渋谷が人々を集め、そこでのエネルギーを(いい方向にも悪い方向にも)発散させていく一つのきっかけになっているような気がする。そういえば、ハロウィンだけではなく、新年や、ワールドカップで日本チームが勝利をおさめたときも、なぜだかスクランブル交差点に若者たちは集う。それはそこが「お椀型の底」で集まりやすく、彼らにとってのドラマチックな空間を提供しているからではないか。 ちなみに、「坂」は民俗学的な知見からも特別な意味を持たされてきた。日本神話に登場する「黄泉平坂(よもつひらさか)」などに顕著なように、「坂」は古来から、日常世界と異世界をつなげる境界の役割を果たしてきたのだ。なるほど、そのように考えると坂の底にあるスクランブル交差点とは、若者たちにとって一種の「異世界」であり、ある種の「ハレ」の空間を作る地形なのであろう。

渋谷の地形が「暴動じみたこと」を起こしてしまう?

そうした地形が渋谷にとって都合が悪いのは、そこで若者がエネルギーを発散させる時が、刹那的にしか現れないということだ。すると、その少しだけ現れる瞬間に向かって、若者たちの熱気は最大になる。だからこそ、普段は起こらないような暴動じみたことも起こるのではないか。良くも悪くも、渋谷は「ドラマチック」な地形を持っていて、そこでたまに発生する「ハレ」の時間が、より渋谷での集まりに熱気を持たせてしまうのかもしれない。 このように考えると、渋谷でのハロウィンが半ば暴動混じりの事件を起こし、結果として行政から敵視されるようになってしまったのは、渋谷の地形的な特徴が導き出した必然だったといえるかもしれない。もちろん、それらを地形のせいにして、若者が悪くない、というつもりは毛頭ないのだが……。 ちなみに、池袋の地形はどうなっているか。国土地理院がネットで公開している「デジタル標高地形図」によると、池袋周辺には大きな平地が広がっている。つまり、「平坦」なのである。そこに大きな意味合いを見出しても仕方ないかもしれないけれど、ドラマチックな地形の「渋谷」に対して平地の「池袋」という対比が面白い。池袋でのコスプレイベントが「日常」的なものであることにも通じそうだ。
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池袋はなぜ「コスプレ」を受け入れたのか?
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ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)
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