「マークの位置」があやふやになっている?
ベトナム戦の2失点目はピッチ中央からやや左でゴールまで40mほど距離からのフリーキックで、蹴り込まれたロングボールをファーサイドで競り負けた。そのボールを鈴木彩艶が一度ははじいたが、逆サイドから詰められた選手によってゴールへ押し込まれた。フリーキックから蹴り込まれる瞬間に菅原が自身のマークすべき相手を見誤っており、
マークすべき相手を自由にジャンプさせてしまっている。また、ゴールを決めた選手へのマークも見失ってしまった。
マーカーが板倉滉なのか細谷真大なのかはっきりしないところがあるが、いずれにしてもボールウォッチャーとなってしまいファーサイドへ目を奪われて、自分のマークすべき相手を全く見ていなかった。インドネシア戦でのロングスローによる失点も同様で、町田浩樹がマークすべき相手を離してボールに近づいたためにファーサイドでフリーの選手をつくりゴールを許してしまった。
要するに基本的なことを怠ったがための失点であり、相手の力が上回って失点したわけではない。そもそもセットプレー時には各選手の立ち位置が乱れて定まらないため、誰が誰をマークするのかをあらかじめ決めている。
特定のマークにつかず全員でスペースを守るゾーンディフェンスというやり方もあるが、今の日本代表はその手法を採用していない。あらかじめマークを決めるのであれば、背の高い選手は誰が対応するのか、スピードのある選手には誰がマークするのかまできっちり決められているはずだ。しかし、
日本代表の失点シーンだけを見ると、少しあやふやになっているように感じる。
ここでひとつ思い出してほしいことがある。
2022年1月、セットプレーでの失点の多さなどを理由に日本サッカー協会はセットプレー担当コーチのポストを新設した。反町康治技術委員長は「青森山田以上のものを出さないといけない」と、当時は冗談まじりに同職について説明していた。今冬の全国高校サッカー選手権大会でも話題となったが、同大会で2大会ぶり4回目の優勝を勝ち取った青森山田高校は考え込まれたロングスローなどを駆使する得点を得意なプレーのひとつとする高校サッカーの雄である。
日本代表の結果だけを見るに、青森山田ほど考え込まれ練られたものとはとても思えない。活動時間が短いという言い訳を加味しても、できることをできていない現状は時間のかけ方の問題でないことは明らかといえよう。
一体全体セットプレー担当コーチは何をしていたのだろうか。A代表選任ではないし、U-19代表コーチとの兼任であるとはいえ、約2年もの間の成果が全く見えていない。ワールドカップのアジア最終予選に向けて研究してくる相手を上回る目的をもって新設されたポストのはずが、研究どおりに相手にやらせてしまっているという結果がアジアカップの現状である。
結果論でいえば何も成せていないし、何も仕事をしていないのと同意であると考えられる。
はっきりといえば、これは責任問題である。そもそも目標・目的を基にしっかりと計画を立てたのだろうか。これまでの親善試合でも立てた計画に基づいて実行できたはずだ。
読者のみなさんが普段から当たり前のようにやっているPDCAすら、技術委員会はできていないように感じる。
とはいえ、アジアカップでは最大7試合行わなければならないなか、まだ3試合しか終わっていない。そういう意味ではサンプル数は少ないともいえる。だからこそ、
決勝トーナメントの試合でこれまでに取り組んできた成果を見せてもらいたい。
<TEXT/川原宏樹 撮影/Norio Rokukawa>
スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる