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“斜陽産業”の製紙業界でも明暗が。「業界2位」は巨大工場建設が裏目に

「業界2位の日本製紙」は巨大工場建設が裏目に

日本製紙 有明倉庫

日本製紙 有明倉庫(J_News_photo – stock.adobe.com)

 苦戦しているのが、業界2位の日本製紙。2023年4-12月の売上高は前年同期間比3.0%増の8745億円、93億円の営業利益(前年同期間は227億円の営業損失)でした。
日本製紙業績

日本製紙業績 ※決算短信より筆者作成

 同社は、第3四半期の決算と同時に通期業績の下方修正を発表しています。2024年3月期の売上高を1兆2300万円と予想していましたが、600万円マイナスの1兆1700万円に改めました。同時に営業利益を240億円から190億円へと引き下げています。  日本製紙は2021年に釧路工場の製紙事業から撤退しました。秋田工場の一部閉鎖も検討しています。王子ホールディングスとは反対に、エネルギー価格高騰の影響を跳ね返すことができず、採算が悪化しているのです。  2007年に630億円を投じて、洋紙を生産する工場を建設しました。デジタル化が浸透しきっていなかった当時、オフィスなどで使用される印刷用紙、チラシ、カタログ、書籍などの紙需要が旺盛でした。グループ最大となる巨大な生産拠点を構え、シェアの獲得に動きます。一時は好業績をたたき出すものの、リーマンショックによる景気の冷え込み、東日本大震災での工場の被災など、逆風が吹き荒れました。それに加え、デジタル化によって印刷用紙の需要が減退します。  2022年に石巻工場にある最大の生産設備を停止。トイレットペーパーやティッシュなどの家庭紙の製造への転換を進めました。なお、日本製紙の2023年3月期の印刷用紙の生産数量は、前期と比較して1割も減少しています。  

段ボールの需要は早くも減退気味だが…

国内出荷高

国内出荷高 ※王子ホールディングス「決算説明資料」より

 生産拠点には巨額の設備投資費が必要。工場の規模も大きく、数百人の従業員が働いています。製紙会社は、消費者や企業、時代の目まぐるしい変化を簡単に受け止められるわけではありません。生産拠点拡大の決断が当時は正しいものだったとしても、二十年ほどすると需要が大きく変化していることもあります。  印刷用紙はコロナ禍を境に、急速に出荷高が減少へと転じました。  ただし、段ボールの需要は決して急増しているわけではなく、ほぼ横ばいが続いています。足元では、段ボールの原紙の在庫量が過去最高水準を記録。過剰生産気味になっているため、原紙メーカーは生産調整を行っているといいます。  王子ホールディングスの段ボール生産強化が、中期的にプラスへと働くのか。需要が一巡したこれからの真価が問われます。 <TEXT/不破聡>
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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