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「日本はギャンブル依存症が突出して多い」「それはパチンコ・パチスロの普及ゆえ」という言説が間違っている理由

30年前のものを、あたかも現代病のように語ってしまう厚労省の愚

 実は厚生労働省では、WHOが新たに提唱したICD-11をいまだ国内に適用していない。だから冒頭のように、国に近い機関だからこそ、ギャンブル障害について間違った理解を流布してしまうのだ。  例えば、パチンコ。  2000年頃から、社会的に公営競技やパチンコ・パチスロ依存が問題となり、2009年に厚生労働省が行った調査によれば「ギャンブル依存症536万人」という衝撃的な数字がはじき出された。その後、2017年に再度厚生労働省が成人1万人に対し面接調査を行った結果、生涯においてギャンブル依存の疑いがある人は約320万人という推計値が発表された。  一度目の調査に比べ、二度目の調査では依存症の疑いがある人が大きく減った訳だが、これも「生涯を通じて」という調査結果であり、実はこれを直近1年で換算すると約70万人程度という数字となる。そもそもこの調査に用いられたSOGSという調査方法自体が現代では改善の余地があるとされており、一説には直近1年で「ギャンブル障害」と思われる人は40万人という話もある。  公営ギャンブルやパチンコを擁護する訳ではないが、少なくともこの調査結果により、厚生労働省が指摘する「日本はギャンブル依存症が突出して多い」、「それはパチンコ・パチスロの普及ゆえ」というのが誤りであることは証明された。

ICD-11適用後のギャンブル障害対策とは?

 ICD-11が新たに定めた「ギャンブル障害」が、日本の「ギャンブル等依存症対策」に適用された場合どうなるのか? まずは40万人~70万人と言われるギャンブル依存症者を、「ギャンブル障害を抱える人」と「その前段階で予防措置が必要な人」に分けなくてはならない。その結果、治療や専門機関等なんらかの介入が必要な、重度のギャンブル障害を抱える人の数は激減する。ここで大事なポイントは、「数が減る」ということでは無い。大事なことは- ①ギャンブル依存問題を抱える人、特に社会的なケア等を要する人たちの実態実情を反映させやすくなる。 ②パチンコ業界においても対象者が明確になることで、より効果的な対策や予防策を提供することが出来る。  ということだ。  現状では、重度のギャンブル障害から一時的または軽度な行動障害をひとまとめにして「ギャンブル依存症」と言っていては、真に対応を要する人たちの実情が見えにくくなる。しかしその実情が明白になれば、パチンコ業界が現時点では全方位に全力で取り組んでいる対策も、より的確に、より効果的に講じることが出来る。  これは、業界の依存問題対策の効率化に繋がる。効率化が進めば対策効果の最大化を図れると同時に、不要な金銭的、時間的コストを削減することにも繋がる。  2025年の大阪万博が終われば、日本ではまたカジノ議論が沸騰する。その時にはギャンブル障害の問題についても改めて話し合われるのだろう。  本当の意味での対策は、正確な理解にそって構築されなければならない。  正確な理解も無いまま、世界の趨勢も知らないまま、「ギャンブル依存症は病気だ!」と声高に叫びながら、メディアが分かりやすい不幸なストーリーだけを追い求めるなら、この国では真の意味での対策は講じることが出来ないだろう。 文/安達 夕(@yuu_adachi
フリーライター twitter:@yuu_adachi
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