「日本はギャンブル依存症が突出して多い」「それはパチンコ・パチスロの普及ゆえ」という言説が間違っている理由
MLBドジャースの大谷翔平選手の元通訳担当であった水原一平氏が違法なスポーツ賭博での借金により解雇された問題で、メディアでは「ギャンブル依存症」の問題が頻繁に取り上げられるようになった。
だが、筆者はあえて言いたい、多くのコメンテーター達が眉間にしわを寄せながらしたり顔で語る「ギャンブル依存症」の話は、8割がた間違った理解のもとで語られている。しかしあたかもそれが真実かのように語られてしまうことで、ネットニュースにはあっちもギャンブル依存症、こっちにもギャンブル依存症、私もあなたもギャンブル依存症とでも言わんばかりに、ギャンブル依存症関連ニュースがネットに乱載される。
では、そもそも「ギャンブル依存症」とは何なのか?
Googleで検索すると「久里浜医療センター」という施設が「ギャンブル依存症」について解説している。曰く、「その人の人生に大きな損害が生じるにも関わらず、ギャンブルを続けたいという衝動が抑えられない病態」であるという。
この久里浜医療センターとは、厚生労働省の委託を受けて、ギャンブル依存症の調査をしている機関でもあり、日本における「ギャンブル依存症の権威」のような立場にある施設だ。
またGoogle検索の次段では、消費者庁が「ギャンブル等依存症とは、ギャンブル等にのめり込んでコントロールができなくなる精神疾患の一つです」と明言していたりもする。
「じゃあ、テレビが言ってる『ギャンブル依存症』と同じじゃん」という声が聞こえてきそうだが、しかし、いやだからこそあえて言いたい。そんなことを言っているのは日本国内だけだと。
10行だけ難しい話になるが、なるべく分かりやすく解説するので、お付き合い願いたい。
新型コロナウイルスが蔓延しているとき、こちらも連日のようにメディアに取り上げられていたWHO(世界保健機関)では、ICDという「世界の疾病の分類」をしている報告書がある。このICDが2022年に11回目の改訂を迎え、世界中の疾病に対する概要が様々に追記訂正された。前回の改訂が1990年であったから約30年振りの改訂になる。ちなみに「ICD-11」は「アイシーディーイレブン」と読む。
そもそも30年前のICD-10でも、ギャンブル依存症については「病的賭博(Pathological Gambling)」という表現に留められていたが、ICD-11では、「ギャンブル障害」(Gambling Disorder)と書き換えられた。
これにより、ICD-10までは「アルコール依存」や「薬物依存」などと同じように扱われていた「ギャンブル障害」であるが、物質に依存する「アルコール依存」、「薬物依存」と、行動の障害である「ギャンブル障害」が明確に区分けされたということを敢えて強調したい。
その上で、ICD-11では、「ギャンブル障害」の症状を明確に示した。
その症状とは、
①ギャンブルに興じる時間や頻度を自分でコントロール出来ない
②日常生活において、ギャンブルを他の何よりも優先させる
③否定的な結果(人間関係の破綻、多額の金銭的損失、健康への悪影響等)が生じてもギャンブルを続け悪化させていく
の3つの症状すべてに当てはまり、且つ
④その行動によって、個人、家族、社会、教育、職業などに重大な苦痛や障害が生じている
状態のことを言う。
この要件が「ギャンブル障害」の必須要件となるのだ。
水原一平氏は「ギャンブル障害」であるか否かはここでは問題ではない。メディアが連日報じた「ギャンブル依存症」というものが、果たしてこのWHOの新たなジャッジの上で、正確に論じられてきたのかが問題なのだ。
「ギャンブル依存症」と言っているのは日本だけ?
世界には「ギャンブル依存症」という言葉は存在しない
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