看板はSEO対策よりもはるかに効果的
――数だけでなく、バリエーションの多彩さも魅力です。お兄さんは烏帽子をかぶったパターン、弟さんはファイティングポーズの「俺に任せろ!」バージョンなどもあります。
泰和:ふざけたふりをしているだけで、ちゃんとマーケティング戦略を考えているからね。同業者がどんどんマネしてくるので、限界ギリギリまでは攻める。
「上半身裸で両手にインプラントを持つのはどうですか?」と提案されたこともあるけど、今までのことが水の泡になってしまうことは絶対にやらない(笑)。
久和:分院展開している同業者がマネしてくることが多いけど、収支が崩壊しているところが多いよね。彼らのほとんどが自己資本比率は1桁台だから。
でも、僕たちは医院をひとつずつやっているだけだし、自己資本比率は90%以上ある。医療法人の平均が50%くらいなので、僕たちはかなり健全な歯科医ですよ。
泰和:兄さんも俺も利益を最大化しようとしているだけ。収益に対する広告費はコンパクトなものですよ。
――やっぱり看板の効果はすごいですか。
泰和:実は最強のネットツールだと思う。同業者はSEO対策に何億円もつぎ込んでいるけど、俺たちはそんなことやらない。勝手にSNSやネットニュースが取り上げてくれるから、アナログでローカルな看板が今ではマス広告に化けている。今さらマネをしたところで、もはや俺たちの「数の暴力」には勝てないだろうけど(笑)。
――ちなみに最初に看板を出されたのは、いつ頃ですか。
久和:僕が開業して12年目のときだから’04年かな。横浜中心部の高島の看板です。思いつきでしたが、すごくウケました。それを見て、弟がマネしたんです。
泰和:違ぇよ。そんなの知らずに、こっちもやってたんだよ!
久和:だけど、歯科業界はものすごく閉鎖的な社会で、当時は離れたところに看板を出す医院なんてなかったんです。案の定、行政から「医療法に則ってない」とクレームが来ました。
――顔出しがダメだったんでしょうか?
久和:顔出しは問題ないのですが、「インプラントの金額を入れろ」とか。明記すれば、今度は「字が小さい」とか。でも、字の大きさの基準を聞いても、行政は答えられない。そんなの個人の主観なので、完全な言いがかりなんです。行政も同業者から「撤去させろ」と突き上げられただけなんです。裏では足を引っ張られて大変でした。
――そんなご苦労があったとは……。
久和:僕たちは代々の歯科医じゃないんですよ。父親は栃木県の小さな町工場の社長なんです。汗と埃まみれになりながら黙々と働いて、僕たちを私立大の歯学部に通わせてくれた。
でも、同級生の5割は親が歯科医。親が医者、親戚が歯医者まで含めると9割が医療関係者の子供なんです。僕たちは何のツテもないなかで身を立てようと必死でした。それが誰もやらなかった看板に繋がっているんですよ。
泰和:今思えばほかの仕事でも良かったんだけど、当時はネットなんかないから情報がなくてね。田舎には歯科医院が少ないから儲かりそうだし、手に職をつけるなら歯科医かなって。
久和:だけど、僕たちが卒業した頃から歯医者が余り始めてしまって。同級生のようなアドバンテージもないし、危機感の中で戦ってきたら、こうなっちゃった(笑)。