お金

“富裕層シフト”が加速する百貨店業界の将来は…「生き残るのは数店舗かもしれない」

三越・伊勢丹:富裕層にターゲット集中

 それでは各社の業績について見ていきましょう。業界トップの三越伊勢丹HDは2008年、それぞれ国内で4位と5位に位置していた三越と伊勢丹が合併して誕生しました。同社は現在、国内で20店舗、海外では台湾やシンガポールを中心に24店舗を展開しています。  百貨店の収入源は主に(1)消化仕入れによる商品販売と(2)専門店からの賃料収入に分けられます。消化仕入れとは百貨店が在庫リスクを抱えない仕入れ方式のことです。他の百貨店が賃料収入を増やそうとするなか、三越伊勢丹は(1)に集中するような施策をとってきました。2010年代は売上高1兆円台で持ちこたえましたが、コロナ禍では業績が大幅に悪化しています。20年3月期から24年3月期における総額売上高の推移は次の通りです。 1兆1,192億円→8,160億円→9,121億円→1兆885億円→1兆2,247億円  冒頭で取り上げた百貨店市場全体と同じように推移していることが分かります。一方で24年3月期は以前の水準を上回りました。ブランド品や宝飾類などの高額品が伸びたほか、インバウンドの伸長も寄与しています。伊勢丹新宿本店や三越銀座店に至っては売上高が過去最高を記録しました。  富裕層の数自体が増えている中で高額品のニーズは根強く、郊外や地方、鉄道系百貨店の閉店による集中化が影響したと考えられます。また、同社は近年、ラグジュアリー品を拡充するなど「高感度上質」を強化する方針を掲げており、富裕層向け強化の施策が成功に繋がったとみられます。

髙島屋:徐々に「SC化」を進める

 百貨店各社の統廃合が進むなかで、髙島屋は独立系として歩んできました。業界2位に位置する現在は国内で14店舗、海外では4店舗を展開しています。「玉川髙島屋S・C」という名称通り、髙島屋は純粋な百貨店業だけでなくショッピングセンター開発も進めてきました。SC店は賃料収入を主体とし、イオンモールのように専門店で構成されます。  24年2月期の全社営業収益4,661億円のうち、賃料収入などの主とする商業開発業の収入は519億円です。コロナ禍では三越伊勢丹HD同様の業績推移となりました。20年2月期から24年2月期までの総額営業収益は次の通りです。 9,191億円→6,809億円→7,611億円→8,818億円→9,522億円  直近では他社同様、高額品販売やインバウンドや牽引しました。24年2月期の好調はリベンジ消費の影響もあるのでしょう。今後については売上に含む百貨店業の割合を縮小し、「商業開発・金融・その他」事業を伸ばす方針です。具体的には、これら3事業の構成比を23年度の39%から31年度には47%に伸ばす目標を掲げています。
次のページ
ラグジュアリー化が進む百貨店の今後は?
1
2
3
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ