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永野芽郁が“まだ24歳”で驚いた。腰の座った演技は「ベテランの域に達している」

雨降り場面の方が活性化する人

考えてみると永野は子役出身なのだった。小学校3年生のときに吉祥寺でスカウトされる。デビュー当時の『ゼブラーマン -ゼブラシティの逆襲-』(2010年)を見ても、言われてみないと永野だと気づかないかもしれない。美しい宝石がまだ研磨される前の原石の状態という感じがする。吉瀬美智子主演の『ハガネの女』(テレビ朝日、2010年)第6話の回想場面あたりから一気に蕾を膨らませ、中学校2年生のとき、オーディションで役を掴み、単身の地方ロケを経験したことで俳優業に本気になった『繕い裁つ人』(2015年)を経て、ラブコメ映画のヒロインという記号的な役割に徹した『俺物語!!』が言わば七分咲き。現在の知名度になったのは『半分、青い。』からだが、彼女の演技が本質的に花開いたのは、『ひるなかの流星』(2017年)だとぼくは考えている。 『半分、青い。』の永野にとっては雨降り場面ですら、可憐な晴れやかさとして写ってしまうのだけれど、そうそう、永野芽郁という人は、ぼくの中では晴れより雨降り場面の方が活性化する人という印象がある。『半分、青い。』で共演した相手役の佐藤健との掛け合いは抜群だったが、同作の鈴愛と同じ名前の主人公を演じる永野が、白濱亜嵐と三浦翔平にサンドされた『ひるなか流星』の雨降り場面では、忘れがたく、特別な存在感を放っていたからだ。 山奥育ちの与謝野すずめ(永野芽郁)が、高校生活を始めるために上京して来る。慣れない都会の喧騒に圧倒されてばかりだが、高校の担任となる獅子尾五月(三浦翔平)のアシストで何とか乗りきることが出来る。都会的なノリの獅子尾によってすずめは、「ちゅんちゅん」と命名される。獅子尾の温かな眼差しの下、すずめは、隣の席の馬村大輝(白濱亜嵐)と友達になる。女子に免疫がない馬村だが、すずめには不思議と気を許す。課外授業ですずめがはぐれてしまったときには、馬村が助けに来るが、二人して山奥で迷ってしまう。直後の場面が、2010年代に日本映画界の一大潮流だったきらきら映画史上最高の瞬間のひとつだ。

ブレイク前夜の映画作品

雨が降る。屋根付きの休憩所で雨宿り。やや急な展開だが、ひとつ屋根の下に男女が身を寄せ合うのは、ラブコメ映画の定番シチュエーション。雨で湿る身体。人知れず、官能的な空間が出現する。 可憐な永野芽郁に官能要素とは意外に思うかもしれないが、新城毅彦監督はおそらくエリック・ロメールのフランス映画『クレールの膝』(1970年)で男女がいっとき雨宿りする休憩所の官能をまさかのラブコメ映画で再現し、雨降り場面で活性化する永野の特徴を引き立てていると思ってしまうのだ。 『ひるなかの流星』の翌月公開の『PARKS パークス』も特筆しておかなければならない。『ひるなかの流星』と合わせて、『半分、青い。』で決定的なブレイクを果たす前夜の映画作品だ。井の頭公園100周年を記念して製作された同作のメイン舞台はもちろん井の頭恩賜公園。主演の橋本愛が木漏れ日が差す公園内を自転車で疾走するだけで感動的だが、それと平行して電車内でつり革からつり革へ揺れ動く永野の動的な均衡が素晴らしい。永野が動くだけで、物語が立ち上がり、映画が成立してしまうようなきらめきがある。
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コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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