それにしても、なぜ国歌独唱でたびたび事件が起きてしまうのでしょうか? 音楽の専門家には見解があるようです。
そもそも「君が代」が歌詞とメロディの組み合わせが悪く、非常に歌いにくい曲だと指摘していたのは、童謡「夏の思い出」や「ふるさと」などで知られる作曲家の中田喜直(1923-2000)です。
平成11年国会の衆議院内閣委員会で、<君が代を歌うと、何だか、ぼわっとしてちっとも緊張感がないんですね。ところが音楽だけはすばらしい。これにも書きましたように、オーケストラとかブラスバンドで君が代をやると、すばらしいんですね。>と答弁しました。歌詞で使われている言葉がスムーズな歌唱を阻んでいると言っているのです。
同様に、アメリカ国歌にも困難がある。そう指摘するのが、NATS(教師による合唱組織)のエグゼクティブ・ディレクター、アレン・ヘンダーソンです。平板な現代のヒットソングとは異なり、メロディの音域が広く、高い音と低い音の行き来も頻繁にあるので、普通に歌うだけでも難しいといいます。
そしてMLBのホームランダービーでも一番悲惨だった、<O’er the land of free>の「free」の高音部。これはプロの歌手でも美しく響かせるのは至難の業だそう。
それでもアメリカ国歌を歌いたいという人にヘンダーソンはこうアドバイスしています。
<適切なキーを見つけ、音程を取るためのピッチパイプを使い、自分の声に合った歌唱スタイルとテンポを見定めること。アレンジを加えようとして自分の能力以上のことをやるのは絶対にダメです>(『Associations Now』 Why Is It So Hard to Sing “The Star Spangled Banner?”より 筆者訳)