「困った人」を動物に例えて炎上した本の中身を検証。当事者会代表「職場を混乱させる恐れ」、弁護士「記述された対策の誤用でパワハラに」
2025年4月24日に三笠書房から発売された『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(神田裕子著)は、発売前から目次やイラストが差別的だと批判を浴びた。特にASD(自閉症スペクトラム障害)やADHD(注意欠如・多動症)など発達障害当事者・支援者・専門家を中心に、出版差し止めのオンライン署名が立ち上がり、18,699人(2025年4月29日時点)が賛同。「#神田裕子著作の出版差し止めを求めます」のハッシュタグはXでトレンド入りした。「ADHDは手柄横取り」「ASDは異臭を放ってもおかまいなし」といった表現が問題視されるも、著者は差別的意図を否定した。
本書は、組織の中で業務が集中しがちな「能力がある人」「仕事を断らない人」「責任感が強い人」を「デキる人」「いい人」とした上で、そのモチベーションを下げる「困った人」を以下の6つのタイプに分類。
●あなたの周りの「困った人」はどのタイプ?
タイプ1 こだわり強めの過集中さん ≫≫ ASDタイプ
タイプ2 天真爛漫なひらめきダッシュさん ≫≫ ADHDタイプ
タイプ3 愛情不足のかまってさん ≫≫ 愛着障害タイプ
タイプ4 心に傷を抱えた敏感さん ≫≫ トラウマ障害タイプ
タイプ5 変化に対応できない価値観迷子さん ≫≫ 世代ギャップタイプ
タイプ6 頑張りすぎて心が疲れたおやすみさん ≫≫ 疾患タイプ
上記のような「困った人」に対する対応マニュアルや取扱説明書(トリセツ)を作成し、身を守るテクニックを紹介するという趣旨のビジネス啓発書だ。
24~25ページに見開き図版で展開されている「【簡易版】タイプ診断チャート あなたの周りの「困ったさん」はどのタイプ」によると、ASDはナマケモノ、ADHDはサルとして表現されている。
「※本チャートは簡易的なものであり、診断結果を保証するものではありません。厳密に診断したい場合は、お近くの医療機関の受診をお勧めします」との但し書きが入っているものの、チャートの質問に答えていくと、何かしらの障害に分類される。唯一、タイプ5の「世代ギャップ 変化に対応できない価値観迷子さん」のみ障害に関連しないタイプだ。どれにも当てはまらない場合は、「観察不十分!もっと対話や観察を重ねてその人の傾向を知ろう!」という項目に行き着く。
なぜこのような分類を採用したのか、本書では【「困ったさんのことを『怖い』と思う」のは、「困ったさんのような人が、それまで身近に存在しなかった」からであり、「血液型をもとに性格を診断したり、動物にたとえて相性を占う動物占い」のように「〇〇の人はこういう傾向があると断定してくれることで相手のことをわかったような気持ちに」なり、「対処法が見えてくることから安心感につながる」】と神田氏は書いている(「」内原文ママ)。
血液型占いのノリで、「この障害」「あの精神疾患」などと雑なレッテルを貼られる側はたまったものではない。このあたりも炎上に繋がったとみられる。
特性に合わせた環境調整や企業の配慮の責務、特性の濃淡に触れられた記載はある。発達障害をレッテル貼りに利用して欲しいのではなく、個性として面白がるくらいの寛容さが必要だ、周囲の人は困ったさんも傷つきやすいという “事情” を理解しておく必要があるとも説いている。
自身も発達障害当事者で、中高年発達障害当事者の会「みどる」代表理事の山瀬健治氏(59歳)は、本書について以下のように指摘する。

『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(神田裕子著)三笠出版
「困った人=発達障害/愛着障害/その他精神疾患者」から「いい人」が身を守るためのトリセツ
障害や疾患に分類するのは血液型占いや動物占いと同じノリ
立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1
記事一覧へ
記事一覧へ
2025年5月5日(月) 20:00〜22:00
【無料】労使ともにハッピーな障害者雇用【トークライブ】
中高年発達障害当事者の会「みどる」を主宰し、延べ2,000人以上の発達障害者の相談に乗ってきた代表理事の山瀬健治さんをゲストに、記事には書ききれなかった障害者雇用の現実と企業の成功事例などを語ります!
下記リンクよりお申し込みください。
https://www.kokuchpro.com/event/aaf2b284a09a5732f439db3415435626/
【無料】労使ともにハッピーな障害者雇用【トークライブ】
中高年発達障害当事者の会「みどる」を主宰し、延べ2,000人以上の発達障害者の相談に乗ってきた代表理事の山瀬健治さんをゲストに、記事には書ききれなかった障害者雇用の現実と企業の成功事例などを語ります!
下記リンクよりお申し込みください。
https://www.kokuchpro.com/event/aaf2b284a09a5732f439db3415435626/
【関連キーワードから記事を探す】
「困った人」を動物に例えて炎上した本の中身を検証。当事者会代表「職場を混乱させる恐れ」、弁護士「記述された対策の誤用でパワハラに」
「ADHDは手柄横取り」「ASDは異臭を放ってもおかまいなし」職場心理術の新刊が物議。「職場での“誤った診断ごっこ”に繋がるだけでは」当事者会代表も懸念
パワハラで2度休職、転職で250社に応募…“生きづらい発達障害”の人が生み出した「驚きの仕事術」
居眠りしていたのに「わかりにくい」と文句を言う…職場の“協調性のない”30代女性、行動の背景にあった“傾向”とは
発達障害を公表したら“職場いじめ”の対象に…県庁勤務の男性(45歳)が激白「あなたが悪いと一蹴され」
この記者は、他にもこんな記事を書いています