「天才少年」の物語から「タヌキ×野球」まで。2025年版「この野球マンガがすごい!」BEST3
今年で10年目を迎えた「この野球マンガがすごい!」。現在進行形で、いま読むべき野球マンガをランキング形式でご紹介します! 業界の最新事情&ニュースも網羅。まるッとサクッとわかります。選者は、野球マンガ評論家のツクイヨシヒサと、スポーツサブカルの伝道者ことオグマナオト。リアル球界よりも熱い、野球マンガ最前線について今回も語ります。
ツクイヨシヒサ(以下、ツクイ) この企画、どうやら10周年らしいですよ。
オグマナオト(以下、オグマ) 驚きますね。
ツクイ 確認してみたら、第1回のランキングトップは『BUNGO ─ブンゴ─』(二宮裕次/集英社)でした。
オグマ その『BUNGO ─ブンゴ─』が今年発売のコミックス41巻で、ついに中学生編が終了。新たに高校生編が描かれることが、正式に発表されました。
ツクイ 10年ですっかり野球マンガ界の柱を担う存在となって…時の流れを感じます。
オグマ 話の途中から主人公のブンゴを含め、登場キャラクターたちの野球レベルが上がり過ぎてしまったので、この後どうするのかなと思っていたんですけど。
ツクイ 高校へは進学せずに渡米してメジャーリーグの下部組織に入るとか、「そして3年後──」でドラフトをすぐに描くとか、イレギュラーな展開も考えられましたけどね。ブンゴはもともと、ひとりの壁当てに何年ものめり込むといった、モノマニアな性質が特徴ですから、いきなり突拍子もないことを言い出す可能性も最後まで消せなかった。東南アジアへ武者修行の旅に出るとか、ドバイの富豪をスポンサーにつけるとか(笑)。
オグマ 素直に高校野球生活が描かれていくのかは始まってみないとわからないですけど、とりあえず連載再開を期待して待ちたいですね。
ツクイ では、あまり寄り道をせずに、ランキングを発表しましょうか。
オグマ ええ、お願いします。
<あらすじ『フロウ・ブルーで待ってる』>
体力にも学力にもルックスにも秀でた小学4年生の幾間余波(いくま なごり)は、退屈な日々を送っていた。自分に「ライバル」はいないのか……。そんなある日、転校生の百合元ゲンジが現れる。余波に匹敵する運動能力を持つ彼は、生粋の野球少年だった。ゲンジとの出会いにより、余波の日常が変わっていく。
ツクイ 2025年の第1位は『フロウ・ブルーで待ってる』に決定します!
オグマ 本気で競い合える相手、打ち込めるスポーツが見つからない「天才」の物語……ということで、誰もが昨年の大ヒット作『ダイヤモンドの功罪』(平井大橋/集英社)を重ね合わせる作品です。でも読み進めていくと、こちらはだいぶ感触の異なる内容だと気づいてきます。
ツクイ いい意味で「少年らしさ」が残っているんですよね。『ダイヤモンドの功罪』は確かに突出した傑作だけど、主人公の綾瀬川次郎に関しては「現実にこんな子、存在するかな?」という疑念が常につきまとう。あまりに現代的過ぎるんです。男の子って元来、「相手に勝ちたい」「負けたくない」という気持ちを本能的に持っている生き物なのでは……という違和感が拭いきれない。『フロウ・ブルーで待ってる』はその点において、野球マンガのカタルシスである達成感や共鳴感に優れていると思うんですよね。
オグマ 2巻で主人公の天才小学生・幾間余波に対して、チームメイトたちが「勝たせたいよなあ いいピッチャーって そー思わせるんだ」って感じるシーンがあるんですけど、彼の少年らしさは仲間にプラスの影響をもたらしていく。そこが素晴らしい。近年、性格があちこちヒン曲がった主人公が多いなか、余波は珍しいくらい真っ直ぐな男の子だと思います。
ツクイ 『〜の功罪』の綾瀬川くんが、少なくとも現状、様々なものを「喪失していくストーリー」を辿っているのに対して、余波は野球と仲間に出会ったことにより、生きる喜びを見つけ出す方向へ人生が進んでいる。大きな違いですよね。
オグマ つまり「天才」の物語という冒頭の切り口は、あくまで流行りを意識した取っ掛かりでしかなく、作者の江田糸図先生が本当に描きたいのは少年たちによる成長譚のほうのはず。今後はむしろ、『H2』(あだち充/小学館)や『BUNGO ─ブンゴ─』(前出)のような、王道のライバル物語に期待できそうかなと。
ツクイ 個人的な願望をいうなら、あまり子どもっぽいやり取りに流れないでほしいかな。大人から見た可愛らしさを描こうとすると、現実の子どもたちから簡単に見透かされてしまうから。どうせなら子どもたちの心へ響いて、野球を好きになってくれるような作品として残ってもらいたいです。
オグマ 僕は現状でも、先をグイグイと読ませる力はスゴイなと思っているんですけど、できれば野球描写ももう少し伴ってもらえると嬉しい。あとは「タイトル問題」ですよねぇ……。
ツクイ パッと聞いて、野球マンガだと判別しにくいのはもったいない。後々に判明するのかもしれないけど、「フロウ・ブルー」っていう単語の意味すらよくわからないっていう(笑)。
オグマ 今年の大河ドラマ『べらぼう』同様、中身が面白くてもタイトルがわかりにくいと、魅力が認知されるまでに時間がかかりますからね。早く多くの人に見つけてもらいたいです。
祝・10周年!第1回受賞作品は、野球マンガ界の柱を担う存在に
2025年の第1位は『フロウ・ブルーで待ってる』

『フロウ・ブルーで待ってる』既刊2巻 江田糸図(講談社)
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