倉山満「命懸けで英国史を書いたら、本当に倒れて死にかけました」
大英帝国を語らずして、世界史を語ることなかれ。新書「嘘だらけシリーズ」で、各国の通史に舌鋒鋭いツッコミを入れてきた憲政史研究者の倉山満氏が、ついにイギリス史にメスを入れる。前回のインタビューでは「大東亜戦争は大日本帝国と大英帝国が刺し違えた戦いである」と指摘したが、今回は本作の執筆活動について「過去の著作はすべて本書を記すためにあった」と断言した。その真意を尋ねた。
――新刊『嘘だらけの日英近現代史』の執筆は、文字どおり“命懸け”だったとか。
倉山:予期せぬ病に倒れたのが、脱稿してから2日後。一歩まちがえたら、これが遺作となるところでした。もともと『日英』はシリーズの集大成として位置づけていて、ほかの過去作も含め、『倉山満が言いたかったことはコレなんだ!』という意気込みをもって書いていたのですが、まさか本当に人生を注ぎ込むかたちになるとは……。
――そして完成した300ページ超の新書。ボリュームもシリーズ最大です。
倉山:新書とは思えないページ数ですが、本当はこの5倍ぐらい書きたかったんですよ。それほどイギリスという国は、全世界の歴史のなかで重要な存在です。大英帝国を語らずして、世界の歴史は何も語れませんから。日本の教科書では、たとえば市民革命にこだわって、『クロムウェルが民衆のためにがんばった、ワーイ♪』みたいな英国史を押しつけてきますが、そういうマイナーエピソードで構築されたイメージについては、生々しくブッ壊しつつ本当の通史を書いたつもりです。
――イギリスが、ほかの国々と決定的に違うところはどこでしょうか?
倉山:地球規模の世界史を初めてつくった国だという点でしょうね。例えば、モンゴルがいくら広大な帝国を築いたといっても、アメリカ大陸やアフリカ大陸は関係ない。あくまでユーラシア大陸内部での話でした。しかし、大英帝国は北米(=カナダ、アメリカ)とインドを奪い、海洋覇権国家として世界の支配者となりました。1763年、七年戦争の講和条約であるパリ条約が結ばれたときに、ここから地球上の国々は、大英帝国の意向を無視することができなくなり、やがて日本にも明治維新が起こるわけです。
――パリ条約が明治維新の遠因になったと?
倉山:パリ条約が結ばれる前年、大英帝国はスペイン領マニラを陥落させています。この時点で、ロイヤル・ネイビー(イギリス海軍)が、日本の鎖国をこじ開けることはわかりきっていました。日本にはもはや武装中立政策(=鎖国)を貫く力がなくなっていたわけです。私が『嘘だらけシリーズ』で一貫して主張し、とくに『日露』で強調したのは、“相手をよく知り、彼らの側に立って見る”という姿勢です。日本史の側から世界を見ようとするから、『何だかわからないけどペリーがやってきて、ロシアが怖いから日英同盟を結び、アメリカと戦争して負けました』というような歴史認識になってしまうんです。しかも大抵の場合、それらは戦後の“米ソ冷戦史観”が強く反映されています。
――米ソ冷戦史観とは?
倉山:わかりやすいところだと、幕末のアメリカがすでに大国だったかのような誤解です。当時のアメリカは、現在のオーストラリアぐらいの力しか持っていない田舎者の国です。それなのに、アメリカばかりが登場し、イギリスの動向は描かれていない。こうしたアメリカ中心の捉え方は、戦後の歴史観です。ちなみに全盛期の大英帝国は、現在のアメリカよりも国力は数倍上。占領面積は、陸地だけを比較してもモンゴル帝国を凌いでいました。
――今回の『日英』では、いつも以上に個性の強い指導者たちが次々に登場します。
倉山:今作は魅力的な人物たちの群像劇としても楽しんでもらえると思います。みんな実在の人物なのに、ところどころでキャラが暴走して止まらなくなってますから。とくに気に入っている人物は、女性問題に国家の命運を懸けてしまうヘンリー8世、エリザベス1世の若き愛人ウォルター・ローリー海軍卿、『怠惰王』『陽気な王様』の異名を持つチャールズ2世、そのチャールズ2世を生涯愛し続けた庶民出身の女性ネル・グウィン、史上最年少の総理大臣として英国の経済を建て直した小ピット、「嘘らだけシリーズ」では敵役でお馴染みのパーマストン外相……。
――見事にキャラの濃い面々ですね。
倉山:でも一番は、やっぱり大ピットですよ。大ピットことウィリアム・ピットは、前述した七年戦争を指導し、大英帝国を築き上げた政治家です。歯に衣着せぬ毒舌で有名だった大ピットは、『今、この国を救えるのは私だけだ』と言い放ち、その信念を貫き通しました。カッコいいじゃないですか、同じことを一度は言ってみたいものです。
わかっているようでよく知らない、各国の正体を白日の下にさらす倉山満氏の「嘘だらけシリーズ」。アメリカ、中国、韓国、ロシアに続き、今回シリーズに名を連なるのはイギリス。世界の歴史上「最強・最恐・最狂の国」と倉山氏が認める、かの国のダイナミックな通史に刮目せよ! <取材・文/ツクイヨシヒサ>
【倉山満氏】
憲政史研究者。著者シリーズ累計30万部を突破したベストセラー『嘘だらけの日米近現代史』『嘘だらけの日中近現代史』『嘘だらけの日韓近現代史』のほか、保守入門シリーズ『保守の心得』、『帝国憲法の真実』が絶賛発売中。待望の新刊『嘘だらけの日英近現代史』、おかべたかし氏との共著『基礎教養 日本史の英雄』を3月2日に同時発売
『嘘だらけの日英近現代史』 史上最強の“帝国”のつくり方とは? イギリスを知れば“戦争”がわかる |
『基礎教養 日本史の英雄』 1人5分!20人でわかる日本の歩み 英雄たちがいなければ、今の日本はなかった! |
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