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「この野球マンガがすごい! 2024」BEST3。快挙を達成した『ダイヤモンドの功罪』が独走状態に

毎日が野球日和の春真っ盛り、今年も「この野球マンガ〜」トップ3が決定しました! 本命はもちろん、世間の話題を集めたあのタイトル。続く注目作に選ばれるのは果たしてどれか。野球マンガ評論家のツクイヨシヒサと、水島新司評論でおなじみのオグマナオトによる業界分析。アニメ化でヒットにブーストをかけている人気作のニュースも含めて、この記事を読めば2024年の野球マンガの現在地がわかる!

鬼門だったサブカル界隈で、野球マンガが1位に輝く!

『ダイヤモンドの功罪』既刊5巻 平井大橋(集英社)

<『ダイヤモンドの功罪』あらすじ> 人一倍やさしく繊細な少年・綾瀬川次郎。みんなと仲よくスポーツをしたいと願う彼だったが、生まれ持つ類い稀な運動神経のせいで、どこへ行っても知らぬ間に誰かを傷つけてしまう。そんな綾瀬川はやがて野球と出会い、「これだ」と心に決めるのだが……。 ツクイ いきなり本題に入りますけど、今回は例年と大きく状況が違うんですよね。 オグマ そうですね、驚きました。宝島社が毎年刊行している『このマンガがすごい! 2024』のオトコ編1位に、なんと野球マンガの『ダイヤモンドの功罪』が輝きました。 ツクイ 僕も以前、宝島社『このマンガがすごい!』の選者をやっていたことがありますけど、あのランキングは伝統的にサブカル系が強い。スポーツものには票が集まりにくいんです。野球マンガに投票したのが僕ひとりという年もありましたから。 オグマ にもかかわらず、堂々の1位を獲ってしまったわけですね。 ツクイ 当然ですけど、僕もオグマさんも『ダイヤモンドの功罪』が素晴らしい作品であることに、まったく異論はない。なにしろ去年の時点で……。 オグマ 僕たちの間では「来年は『ダイヤモンドの功罪』で決まり」という話はしていたんですよね。ただ去年の選考時点では、この企画におけるレギュレーションのひとつである、「コミックス1巻が発売していること」を満たしていなかったので、あえて除外していました。 ツクイ 何か、あと出しジャンケンのいいわけみたいで恥ずかしいです(笑)。でも、それだけ傑出した作品があるにもかかわらず、あえてニッチな作品を通んで挙げるのはもっと恥ずかしいと思うので、今年は『ダイヤモンドの功罪』が1位でいいでしょう。 オグマ 賛成です。

現代の野球少年たちの環境がリアルに投影

ツクイ で、作品の内容についてですけど、あらすじや概要はあちこちのサイトで紹介されているので、ご存知の方も多いと思います。ものすごく要約すると、本人が望まぬ野球のギフテッドを授かった心優しい主人公が、友だちや大人たちとのすれ違いや軋轢をどう受け止めていくのか、といったことが主題に置かれた作品です。 オグマ 非常に現代的な視点とテーマを用いているのが特徴で、野球シーンそのものよりも、主人公と周囲の心の機微が丁寧に描かれています。と同時に、リトルやボーイズほか10代の野球少年たちを取り巻く環境がリアルに投影され、野球界全体の問題とリンクされているのも特徴でしょう。まさに「令和の野球マンガ」といった感じです。 ツクイ その辺りの「天才への憧憬」と「逃れられない現実」とのバランスのよさが、野球ファン以外の読者へも届く、リーチの長さを実現していると思います。とはいえ、じつは『ダイヤモンドの功罪』についての作品解説は、去年に開いた本企画のイベント(※)でもかなり時間を割いていて、同じ内容をここで再現するといつまで経ってもランキングが終わらない(笑)。 オグマ かなり長く話していましたからね。あの時点で、すでに「宝島社の『このマンガがすごい!』でもランキングに入るだろう」という話は出ていました。まさか1位になるとは思いませんでしたけど。 ツクイ なので、今回はランキングの続きを急ぐとして、『ダイヤモンドの功罪』論については、またあらためて別の記事で深掘りしていきたいと思います。 オグマ わかりました。 ※東京・阿佐ヶ谷ロフトAにて、2023年8月14日に開催された「『この野球マンガがすごい!』」ナイト 『大甲子園』編」のこと。第2回も開催予定。
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「バカ野球マンガ」の系譜に、また新たな1ページが紡がれる
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