3時間睡眠の人と7時間睡眠の人の「起きている一生の時間は同じ」という確信【鴻上尚史】
― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
◆人間の起きている一生の時間は同じ、という確信
あなたは、何で年齢を感じまか?時折、そういう質問を受けます。
鴻上はずっと仕事をしている、と思っている人もいますが、一日7時間はちゃんと寝ています。
なぜなら、寝ないともたないからです。単純な理由です。おいらは、昔から体力がないので、ちゃんと寝ないと活動できないのです。
よく、「いやあ、完徹できなくなってきたよ。体力、落ちたなあ」なんて言う人がいます。「昔は、二日や三日、完徹できたのに」と、体力自慢の人は言うのです。
冗談ではありません。おいらは、二十代の頃から、完全徹夜なんてしことがありません。1時間でも2時間でも寝なければ、次の日は使いものになりませんでした。
体力のある人は違います。二十代から三十代の前半ぐらいまで、クラブ活動とかで、野球とかバスケとかやってきた体力自慢の人達は「もう、面倒くさいから、寝ないでこのまま仕事に行くよ」なんてことをサラッと言いました。こっちは、「じょ、冗談じゃない。ちょっとでも寝たい!」と内心、叫んだものです。
でも、1時間ぐらい寝ただけだと、とりあえず動けますが、思考能力は復活しません。まさに、ゾンビです。「若いんだから、徹夜に負けるんじゃない!」と言われると元気なフリをしますが、思考能力は最低で、元気なゾンビになっただけでした。
一日平均睡眠時間は5時間前後です、なんて人が普通にいるのですが、そういう人はちゃんと思考できているんだろうかと、勝手に心配しています。思考し続けた脳は、5時間ぐらいの睡眠で納得しているのかと思うのです。
20代は、一日8時間は確実に寝ていました。どこでも寝られたし、いつでも寝られました。時差ボケなんて、なったことがありませんでした。ニューヨークに行ってもロンドンに行っても、着いた次の日から日本と同じように活動できました。
でも、睡眠不足にはやられました。
と、書きながら、睡眠が人生に一番大切なんじゃないかとも思っています。徹夜続きで仕事をして、そして徹夜が半ば自慢だった手塚治虫さんも石ノ森章太郎さんも60歳で亡くなっています。
◆直らない時差ボケで感じる「老い」
僕には「人間の起きている一生の時間は同じなんじゃないか」という確信のようなものがあります。一日睡眠3時間で過ごし、時々、完徹した人の起きていた時間と、一日7時間寝ていた人の起きていた時間は同じなんじゃないかと思うのです。だからこそ、寝なかった人は早死にするんじゃないかと信じているのです。
というわけで、昔から睡眠不足に弱いので、それで年を感じることはありません。
同時に、昔から体力もそんなにありませんでした。これを言うと、みんな、「嘘でしょう。毎日、仕事ばっかりしてるのに。体力あるじゃないですか!」と言いますが、体力はありません。腕相撲しても劇団の女優に負けますし、稽古で全員で鬼ごっこやったらすぐにつかまりますし、マラソンに出たら後ろの方でトボトボと歩いています。
ただ、疲れてからが長いのです。すぐに疲れますが、そこからジワーッと動き続けます。激しくエネルギッシュな動きではなく、疲れたまま、なんとなく、よっこらしょと動き続けて、気がつくと山の頂上に登っていたりします。
なので、はなから体力がないので、体力が落ちたから年を取ったという自覚もないのです。
んじゃあ、お前は何で年を感じるのだというと、じつは、ちょこっと書いた「時差ボケ」なのです。50歳を越えて、めっきり、時差ボケが直らなくなりました。海外にでても、一週間はまちがいなく日本の時間を引きずります。今回のロンドンも一週間、夜中の4時にパシッと目が覚めて困りました。日本時間ではお昼の1時です。一週間たって、やっと体がロンドンに馴染んで生活が始まった途端、もう日本に帰る日が来ました。そして、今、ロンドンの時間を引きずって時差に苦しめられています。やれやれ、です。
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