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同行記者が見た尖閣諸島・魚釣島上陸の一部始終

「船長、ご迷惑おかけ致します!」

石垣島からはるか170km、外海ならではの強い日差しが甲板を激しく照りつけるなか、それまで船上にいた“彼ら”は、次々と記者の前から姿を消した。

 魚釣島の岸からわずか20、30mの波間に人が続けざまに飛び込む音が聞こえたと思うと、この遠洋まで引率してくれた「第一並里丸」の船長は、少し口元を緩めながらこう一人ごちた。

「聞いてないよ。俺は……」

尖閣諸島,魚釣島

魚釣島上陸直後、大きく日の丸を振る田中ゆうたろう杉並区議。この島の領有権は日本にあるという強い政治的メッセージにほかならないが、果たして、強気の姿勢を崩さない中国共産党に対してのアピールだったのか、それとも、いまだ上陸申請を渋る煮え切らない日本政府に対してだったのか……

*   *   *

 ここから先は報道ベースに乗ったとおり、「頑張れ日本全国行動委員会」(代表:田母神俊雄元航空幕僚長)が主催する「尖閣諸島集団漁業活動」に参加していた地方議員を含む総勢10人の日本人が、8月19日朝、日本政府の許可なく魚釣島に上陸した。

 前日の17日夜、石垣港から10人乗船するのがやっとの小さな漁船に乗り込み、剥き出しの甲板に雑魚寝しながら、実に8時間かけて尖閣諸島を目指した。

 星降るような夜空を見上げながら、たまたま同じ船に乗り合わせていた記者に、その後魚釣島に上陸した地方議員の一人は、先に不法上陸で逮捕された香港の保釣運動家たちに対する不甲斐ない日本政府の対応を熱っぽく語るひとコマもあった。

 もちろん、そこに居合わせたすべての人間は、今回、島への上陸申請を却下されていたことは熟知していたはずだ。超党派の国会議員でつくる「日本の領土を守るため行動する議員連盟」が、終戦間際に尖閣諸島沖で遭難した疎開船の慰霊祭を開催するため、先に政府に上陸許可を求めていたものの、この直前に門前払いされていたからだ。

 つまり、長旅に同行していた記者の手前では、事前にみなで示し合わせるなど、上陸の可能性はおくびにも出していなかったということだ……。

*   *   *

「風が強かったので船から海に落っこちてしまった。無我夢中で泳いだら、目の前に島があったので、そこに流れ着いただけです……」

 海上保安庁の事情聴取が一番遅くまでかかった「第一並里丸」が石垣島に帰港したのは夜9時を過ぎていたが、港で待ち受けていた大勢の報道陣を前に、田中ゆうたろう杉並区議は、魚釣島上陸の理由を問われ飄々とした口ぶりでこう答えた。

 だが、田中は明らかな確信犯と言えよう。

 あまりに突発的な出来事に、今回の上陸劇を報じたテレビ映像はどれもピントの外れたお粗末なものだったが、上陸直後に、灯台前の海べりで日の丸を大きく振っている彼がまとっていた杉並区の防災服の下は、実はウエットスーツに地下足袋だったからだ……。

「島から離れなさい!」

 第11管区海上保安本部による警告が何度かこだました。2年前、尖閣諸島沖中国漁船衝突事故の流出映像のなかで聞いた、あのけたたましいサイレンも何度か繰り返された……が、記者の目からは、それが出来レースさながらの大捕り物に見えたというのが正直なところだ。

 海保の保安官が「怠慢だ」などと言っているわけではない。遠くに留まる巡視船から、ゴムボートなど数機でとりあえず現場に乗りつけ、本来ならば不法侵入者を是が非でも駆逐しようと尽力するはずの屈強な海猿たちが、今回ばかりは、努めて静観しようとしているそぶりが記者には見て取れたのだ。

 ここで上陸を阻止しようものなら、「外国人の上陸を許しているのに、なぜ、日本人が我が国固有の領土に上がって捕まらなければならないのか」といったそしりを受けると考えたかどうかはわからない。だが、今回の不法上陸を取り締まる海上保安庁の側も、苦渋の判断だったに違いない。その証拠に、船上で事情聴取を受ける田中の「風が強かったので船から海に落っこちてしまった」という子供じみた説明に、保安官の一人はこう答えていた。

「確かに、風は強かった……。落ちるのも仕方ない」

 今後、他国がこの周辺海域にあらゆる手段を講じて侵入してくることは間違いない。離島防衛の最前線で、これを事実上「丸腰」で相対するのは、紛れもなくここにいる海上保安官の一人一人だ。そんな彼らもまた、今回上陸を果たした地方議員たちと同じ思いだったのだろう。形式的な事情聴取を進めながら、言葉を超えた思いが両者の間に通じ合っているように感じた。

 帰りの航路、漁船のエンジン音で途切れ途切れになりながらも田中に本音を問うた。

「いや、あのときは風が強く吹いたのです。だから、遮二無二泳いで魚釣島に辿り着いた。ただ、それだけの話です……」

 記者がウエットスーツのことを質すと、田中がひと呼吸置いて続けた。

「ただ、これはあくまで個人的な見解ですが……。日本人は、慎ましやかな幸せのために、1日1日をただ平穏無事に暮らしたいと願っているだけです。そこに、私たちの国の領土に他国が一方的に攻め入ってきても、それと戦うことも許されないというのは違うと思います。今の中国のやりたい放題の状況が続くなか、離島防衛のために領域警備法を整備する議論が遅れている……。私は地方議員の一人として、また一国民として、国民を守るために、家族を守るために、自衛権の行使は必要不可欠であると思っています。例えば、自衛隊を駐留させる等の措置を講じることです」

 ふと、ドイツの法学者、ルドルフ・フォン・イェーリングの名著『権利のための闘争』にある以下の一文を思い出した。

「隣国に1平方マイルの領土を奪われながら膺懲の挙に出ない国は、その他の領土をも奪われてゆき、ついには領土をすべて失って国家として存立することをやめてしまうだろう」

 往路と同様、丸々8時間かけて戻ってきた真っ暗な石垣港で、「第一並里丸」の船長と乗組員に礼を告げる田中を含む4人の地方議員の声がこだました……。

「ご迷惑おかけ致しました! そして、お世話になりました!」

 先に尖閣購入を明言していた東京都の上陸申請を「不許可」とする方向で調整に入ったという政府は、この多くの人の思いをどう受け止めるつもりなのか。

※今回、「第一並里丸」から魚釣島に上陸した者は以下のとおり
●田中ゆうたろう(杉並区議会議員)
●鈴木あきひろ(東京都議会議員)
●和田有一朗(兵庫県会議員)
●工藤淳一(民間人)

※8/21発売の週刊SPA!では、今回の尖閣問題に関する石垣島漁師たちの声を報じている
<取材・文・撮影/山崎元(本誌)>

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表紙の人/大島優子

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