東電一般社員の叫び「苦情や脅迫の対応は末端におしつけ、会社は守ってくれない」
原発事故への責任追及が東京電力社員に集中している。「事故の責任を取れ」というが、一社員にとってはどうしようもない。それでも脅迫やイジメは続く。そもそも、原発に関わってこなかった人がほとんどの職場。そんな現場の声をリポートした。
◆最前線にいる一般社員のストレスが最高潮に
事故後、原発事故の補償担当を務めるIさんはこう語る。
「賠償関連は事務所を隠しています。ほかのテナントに迷惑がかからないようにするためですが、それでもどこかで調べてくる人がいる。窓口で『人殺し!』と叫んだり、シュプレヒコールを上げ始めたり、売れなくなったという農産物を運んできたり。こちらは事故を起こした側なので『申し訳ございません』と言うしかありません。じっくり相手の話を聞いて、お帰り願っています」
そんな最前線の職場では、職員の精神的なストレスが最高潮に達している。
「補償担当の社員には、仕事に対するモチベーションもない。仕事を頑張っても評価されることはなく、批判されるだけ。僕の後輩は精神的ストレスが原因で、腸にポリープが13個できました。そんな職場では、他社でも通用するような、20代の優秀な社員ほど辞めていきます」(Iさん)
’11年度に東京電力を依願退職した社員は460人。これは例年のおよそ3.5倍だという。
こうしたことを、本社は把握しているのだろうか。東電に聞いてみると「そういうケースがあることは把握しているが、全体的に集計していないので計量的には把握していない」(広報部)とのこと。実際には、多くは最前線の社員が批判を直に受け止めているようだ。
「会社はなるべく騒ぎを大ごとにしたくないのか、ほとんどの件は現場で処理するようにとの暗黙の指示を出しています。火炎瓶を投げ込まれたようなケースは例外ですが、ほとんどは現場で処理しています。こちらは100%悪い立場。本当に『申し訳ございません』と謝るしかできない」(Hさん)
「昇給や昇進の夢も今はもうない。入社当初の安定した生活はあきらめました。今、何のために仕事をしているかというと、使命感しかありません。自分が辞めたらもう事故の収束をやりたい人なんていないだろうって」(Iさん)
このような最前線の東電社員に対して、会社はどう対応しているのかを聞いてみた。
「震災前から社内に面談・相談窓口をもうけているが、今後さらに対応していきたい。さらに、全ての事業所というわけではないが、精神科専門医を配置して、メンタルケアや相談を行っている。また定期健康診断でメンタルチェックも行っている。一番大事なのは上司が部下の異常に気づくことなので、上司(管理職)に対する社員教育や研修を実施している」(広報部)とのこと。
「今後の自分のサラリーマン人生に希望が持てないし、仕事にプライドも持てない。葬式や結婚式などで不特定多数の人に会うとストレスがたまる。でも生活があるから辞めることもできない。自分でもどうしたらいいのかわからないんです。事故後、精神科に通う社員は多いですが、私の同僚は薬の飲みすぎで危険な状態に陥りました、会社に言ったところ、『気の持ちよう』と。会社は、社員を守ろうとしてくれてはいないようです」(Jさん)
― 東電「一般社員」の声に出さない悲鳴【3】 ―

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