「なぜ、私は原発を止めたのか」元裁判長がすべての日本人に知ってほしいこと
現在、「原発の危険性」を伝える活動を続ける元裁判長と、太陽光発電による農業の復活に挑む福島の人々を追った映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』がポレポレ東中野他全国の劇場で公開されています。2014年5月、福井地方裁判所裁判長として、関西電力大飯原発の運転差し止めの判決を下した樋口英明さんは、定年退官を機に、原発の危険性を伝える活動を始めました。なぜ、原発の運転を止める判決を下したのか、そして、従来の原発訴訟の問題点とは何なのか――。樋口さんにお話を聞きました。
――なぜ、定年退官後、原発の危険性を伝える講演活動を始めたのでしょうか。
樋口英明さん(以下「樋口」):「原発は強い地震に備えているはずだ」とほとんどの人が思い込んでいます。私自身も福井地裁で大飯原発3・4号機の運転差止訴訟を担当するまではそう思っていました。
ところが、原発訴訟の審理を通してそうではないということがわかりました。
原発は「止める・冷やす・閉じ込める」という「安全三原則」を守らなければなりません。原発は核分裂反応を止めることができたとしても、電気で水を送り続けてウラン燃料を冷やし続けない限り、福島原発事故のような過酷事故になるのです。原発には運転を止めるだけでは安全を確保できないという火力発電とは全く違った特徴があるのです。私たちの常識が通用しにくい技術であることを知っておく必要があります。
たとえ、原子炉自体の耐震性が高くても原子炉につながっている配電や配管の耐震性の低さを考えると、強い地震による停電や断水の危険は避けられないのです。
ハウスメーカーの耐震基準は、三井ホームで5115ガル、住友林業で3406ガルです。一方、2021年3月に原子力規制委員会が認可した耐震基準は、四国電力の伊方原発3号機で650ガル、関西電力高浜原発で700ガルなど、1000ガルを切るものも多く、下は620ガルから上は1209ガルの間に留まっています。そして、それを超える地震が日本では頻発しています。原発が安全でないことは、このことから一目瞭然です。
――原発訴訟は高度な専門的科学知識を要するもので、理解しにくいというイメージがあります。
樋口:確かに、原発訴訟は「専門技術訴訟」とされています。原発裁判の訴訟資料を見ると科学技術の知識や難解な数式などが出て来るので、そのように感じるのかもしれません。
しかし、電力会社の「この原発の敷地に限っては震度6や震度7の強い地震は来ませんから安心してください」という主張を信用するか否か、これが原発訴訟の本質です。
法律家も一般国民も「自分には難しくて危険性は判断できないのではないか」という先入観に囚われているのです。
福島第一原発の吉田(昌郎)所長は2号機の格納容器の爆発を原因とする「東日本壊滅」を覚悟しました。原発の過酷事故はわが国の存続にかかわるのです。私は、原発事故からわが国を守るために、多くの人々の先入観を解かなくてはいけないと思って講演活動を始めました。
ハウスメーカーよりも低い原発の耐震基準
電力会社の主張を信用するか否か
ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも関わる。
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