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ロシアによる、人類史上初の運転中の原子力発電所への軍事攻撃は何を意味するか?

原子力発電所が軍隊に攻撃された!

ザポリージャ原子力発電所 3月4日午前、昼過ぎまで寝ている間も24時間流しっぱなしにしているCNN U.S.の夜の報道番組AC360°(Anderson Cooper 360 Degrees)で、ウクライナ共和国南部にあるザポロジエ原子力発電所(ZNPP)がロシア軍による攻撃を受け、建屋が被弾、火災が発生しているという緊急速報が入りました。 <※Anderson Cooper 360 Degrees/Fire At Nuclear Power Plant In Ukraine After Russian Assault 2022/03/03 21:00 ETCNN Transcripts>  欧州最大の原子力発電所がロシア軍による攻撃を受け、建屋が炎上し、銃撃のために消防隊が接近出来ない、但し放射線量の増加は見られないというものでした。  放射線量は、多くの市民が定点測定している線量観測がSNSによって逐次報じられており、それによって確認が取れたとして賞賛されています。  これまでに原子炉への軍事攻撃はイスラエルによるイラクのオシラク原子炉爆破(1981年6月7日完成直前)や、フランスのスーパー・フェニックスへの建設中での対戦車ロケットによるテロール(1982年1月)などがありましたが、運転中の商用原子力発電所が軍隊による攻撃を受けたのは初めてのことです。  商用原子力施設および商用原子力発電所への攻撃は明確な国際法・条約違反*ですし、最悪の場合、欧州全域に甚大な核災害を発生させますので絶対に行ってはならないことです。 <*ジュネーヴ諸条約及び追加議定書 第一追加議定書 ・危険な力を内蔵する工作物等(ダム、堤防、原子力発電所)の保護(第56条) 第二追加議定書 ・危険な力を内蔵する工作物等(ダム、堤防、原子力発電所)の保護(第15条)>  ロシアは、ウクライナ侵略において策源地であるベラルーシ共和国からウクライナの首都キエフへの通過点であるチェルノブイル原子力発電所を既に制圧していました。但しチェルノブイル原子力発電所は、とっくに全炉運用終了、管理廃止措置に入っており、核物質の保全が行われる限り脅威とはなりません。一方でチェルノブイル周辺の立ち入り禁止区域(ZONE)における軍事活動のためにアクチニド(ウランやプルトニウムなどのとても重い放射性元素でアクチニド系列と呼ばれるもの) を含む放射性の塵がまきあげられ、放射線量が急増しているという報告もあります*。 <※チェルノブイリ原発で放射線量が急上昇、危険性は「極めて低い」と ウクライナ侵攻2022/02/26 BBC>  チェルノブイル核災害では、福島核災害と異なり、原子炉炉心が環境中に吹き飛ばされたため、アクチニドが降下しており、放射性の塵にはたいへんに厄介なものが含まれます。そのため、適切な防護をしていなければロシア兵の長期的健康に影響する可能性があります。その一方でこれは局地的ですのでZONE及び近隣の外への影響は軽微と見込まれます。  今回ロシア軍に攻撃されたザポロジエ原子力発電所は、欧州最大の原子力発電所*で、最大出力ではウクライナの発電量の20%を占め、現在運転中であることからこの発電所での戦闘は、チェルノブイル原子力発電所とは全く異なり、たいへんな暴挙です。またザポロジエ原子力発電所は、使用済み核燃料の保管状態が良くないことで評判が良いとは言えないところがあります。 <*世界第三位の規模で、世界一位は、休止中の東京電力柏崎刈羽原子力発電所>  ザポロジエ原子力発電所では、訓練棟が攻撃により破壊され、管理棟なども被弾、使用済み核燃料管理施設や原子炉建屋も被弾しているとされていますが、執筆時点では正確な情報がありません。この正確な情報が無いという事も原子力安全にとり重大な脅威です。

安全性は西側並みのザポロジエ原子力発電所

 ソ連邦は、大原子力国でしたが、ソ連邦の原子力開発は、過酷事故への備えが薄く、生体遮蔽(放射線遮蔽)はあるものの、格納容器がなかったという事で知られています。チェルノブイルがこれで、根本的な設計思想の欠陥を指摘されました。  ザポロジエ原子力発電所には六基の原子炉があり、合計6GWhe(電気出力600万キロワット時)近くの発電容量を持ちます。原子炉は、VVER-1000/320といってソ連版のPWR(加圧水型軽水炉)という炉型で、基本設計は合衆国系の大型商用炉と同等のものです。建設開始が1980年でありTMI-2事故(スリーマイル島原子力発電所2号炉事故)以後の原子炉ですから、西側で考える商用原子炉の安全設計は基本的に備えていると考えて良いです。  また1990年代にVVER-1000シリーズはチェルノブイル核災害の経験も組み込んだ過酷事故対策等の近代化を経ており、本邦の大型加圧水型原子炉並みの安全性はあると考えて良いと筆者は見做しています。  VVER-1000は、中小型のVVER-440での失敗をもとに東欧向け輸出を前提に設計されていますが、35年の設計寿命です。このためザポロジエ原子力発電所では2010年以後、点検、延命工事が検討、実施されてきました。  国際原子力機関(IAEA)の発表*では、運転中は4号炉のみで、1号炉は定検中、2号炉と3号炉は停止中、5号炉と6号炉は低出力待機予備運転中とのことです。日本原子力産業協会(JAIF)によれば、2号炉が50%出力で運転中とのことです**が筆者はIAEAによる情報を採用しています。 <*Update 11 – IAEA Director General Statement on Situation in Ukraine 2022/03/04 IAEA> <**ウクライナの原子力発電所の状況2022/03/04一般社団法人 日本原子力産業協会>  従って仮に4号炉が緊急停止してもウクライナ全土の送電網が崩壊することはないようです。寒冷地ですので電力喪失は、市民の生命に関わります。有事において大型電源への偏重と依存が送電網に混乱を来し社会の安全を脅かすことは東日本大震災や北海道胆振東部地震が如実に示しています。
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ロシアにとっても原発へのは不用意にはできない事情
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誰が日本のコロナ禍を悪化させたのか?

急速な感染拡大。医療崩壊。
科学者視点で徹底検証!

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